塩野:政府・官僚とシンクタンクのすみ分けとか、役割分担はあるんでしょうか。
佐藤:おそらく政府側でやれることは、シンクタンクには振らないと思います。むしろステークホルダーとの関係で、政府がやりにくいことをシンクタンクにやってもらおうということが多い。イノベーティブなアイデアには反発がつきものですから、それを政府部門がやると業界団体などから政府が軒並み批判を受けてしまうので。
でもたとえばAというシンクタンクが何かアイデアを出すと、それに反対する人たちは、Bというシンクタンクにその政策をつぶすアイデアを出してもらって戦おうとしますね。
塩野:本当に広告代理店的な戦いですね。
佐藤:おっしゃる通りです。ただ、やっぱりシンクタンクによってそれぞれ得意分野があります。医療分野でいうと、ブルッキングスは国内の普通の医療が得意ですし、ワシントンD.C.にあるCSIS(戦略国際問題研究所)は、いわゆる国際保健とか、ワクチンとか、エボラ問題などに強い。
ロビイングファームとシンクタンクの違いは?
塩野:CSISは小泉進次郎氏がいらっしゃったところですね。ところでワシントンD.C.にはシンクタンクやロビイングファーム、法律事務所ばかり並んでいる「Kストリート」という場所がありますが、素人からするとロビイングファームもシンクタンクと似たようなことをするところだという印象があります。ロビイングファームとシンクタンクの違いってあるんですか。
佐藤:私の印象でいえば、ロビイングファームはどちらかというと政治サイドに深くコミットして、最後は法案の形にすることに軸足を置いていることが多い。シンクタンクは法案そのものを作ることより、むしろ法律ができあがったあと、インプリメンテーション(実行)するときに、どんなスキームがあったらやりやすいかとか、その法案の大元になるような基本的なコンセプトって何なんだろうとか、そういうことを考えて提案しています。本当に法律をつくって、グサッといかなきゃいけないようなものは、ロビイストが頑張ってくれているのかなあという気がします。
塩野:先ほどオバマケアの話があったように、シンクタンクは大統領選挙などにおいても思想的、政策的支柱になることがありますが、そもそも、なぜそんなに力を持つようになったんですか。
佐藤:それはシンクタンクによって違うストーリーになると思いますが、ブルッキングスの創始者は「いい政策をつくれる官僚を養成しよう」と考えたんですよね。もともとは政策を勉強して、それを政治家に持っていき、彼らが政策を実現してくれればいいという思想でできています。ブルッキングスには公共政策大学院というものが併設されていて、官僚養成校としての機能を持っていた時期もあるんです。今はどちらかというと純粋にリボルビング・ドアをしながら、パブリックと一緒になって政策を届けていく、その影響力をどんどん浸透させていくのが役割なのかなという気がしますね。
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