西郷軍が立ち去ったあとの熊本城下について、明治10(1877)年5月25日付の『郵便報知新聞』は次のように報道している。
「焦土の異臭はなお鼻をつき、歩くのにも苦しむ。焼け残った家々では洋品、呉服、魚、肉、野菜を売らない家はない。また村木や藁で仮住まいを造る者もあるが、戦後物価は高騰して、貧しい者はそれすらできない。だから戦争前の家に戻ることもできない」
『郵便報知新聞』とは、前島密の発案によって明治5(1872)年に創刊され、翌年から日刊となった。西南戦争では、後に内閣総理大臣となる犬養毅が戦地から記事を送っており、この戦争がいかに庶民の生活を犠牲にしたかがわかる。
戦争の最中に開かれた内国勧業博覧会は大成功
大義なき悲惨な西南戦争が行われるなか、明治10(1877)年の8月に、日本で初めて第1回内国勧業博覧会が開催される。
外国の新技術の紹介と国内の技術交流を目的としたもので、大久保が推し進めたものだ。
博覧会は大盛況に終わり、日本の産業促進に大きな影響を与えることとなった。以後の博覧会のモデルケースがこのときに作られた。
大久保が動じることなく、国家のあるべき姿を追い続けるなか、西郷軍は政府軍にいよいよ追い詰められていく。西郷隆盛の最期が近づいていた。
(第56回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
瀧井一博『大久保利通: 「知」を結ぶ指導者』(新潮選書)
勝田政治『大久保利通と東アジア 国家構想と外交戦略』(吉川弘文館)
清沢洌『外政家としての大久保利通』(中公文庫)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
鈴木鶴子『江藤新平と明治維新』(朝日新聞社)
大江志乃夫「大久保政権下の殖産興業政策成立の政治過程」(田村貞雄編『形成期の明治国家』吉川弘文館)
入交好脩『岩崎弥太郎』(吉川弘文館)
遠山茂樹『明治維新』(岩波現代文庫)
井上清『日本の歴史(20) 明治維新』(中公文庫)
坂野潤治『未完の明治維新』(ちくま新書)
大内兵衛、土屋喬雄共編『明治前期財政経済史料集成』(明治文献資料刊行会)
大島美津子『明治のむら』(教育社歴史新書)
長野浩典『西南戦争 民衆の記《大義と破壊》』(弦書房)
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