2006年がんで逝った男が遺した言葉に見えた情景 家族の懊悩と真贋と時代の空気が今にも残る

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ハリスさんの死をフェイクと見るコメントもここに紛れている。ブログ更新が面倒になったから、妻を装って死んだことにしたんだろうとの内容だったが、常連の読者に強く非難され、否定されたあとの反応はない。死去を裏付ける確かな情報はなかったが、ハリスさんの人柄に触れてきた読者たちにフェイクと信じる様子は見られなかった。

先の男性はハリスさんの印象について次のように答えてくれた。「いつも忙しそうでしたが、ブログを互いに更新した際には必ずコメントする間柄の仲のいいアニキ分の印象です。コメントの文面も柔らかく、すごく優しい方なんだろうと思っています」

多くのブログ仲間が男性の呼びかけに応じたのは、そうした人柄ゆえなのだろう。

がんの告知はどれだけ一般的だったのか

ただ、2022年の感覚でハリスさんのブログを読むと、また別の角度から違和感を覚えるかもしれない。医師が「でっかい潰瘍」と説明するくだりだ。

<(〟・∀・)ノ<おおっきいの出来てましたね
o( ´゜(Д)゜)・・・・
o( ´゜(Д)゜)<もしかして・・・・
o( ´゜(Д)゜)<家族呼んでください・・・ですか?
(〟・∀・)ノ<べつにいいですよ
(〟・∀・)ノ <でっかい・・・潰瘍ですから
o( ´゜(Д)゜)<かいよぉ?>
(2006年2月21日「ご無沙汰してます・・・( ̄(ェ) ̄;)ゞポリポリ」)

がんも悪性腫瘍なので「でっかい潰瘍」であることに間違いはないが、「家族呼んでください・・・ですか?」と深刻な事態を心配するハリスさんに対して「べつにいいですよ」と返しているあたり、真の病状を隠す意図がはっきり現れている。実際のやりとりをブログ用にコミカルに改変したとも考えられるが、それを踏まえても一定のリアルなやりとりが会話劇のなかに残されているようにみえる。

2006年2月21日の日記の一部

真実を知りたがっている本人に対して、医師が病名を伏せることはありうるのだろうか?

国立がん研究センターが2021年11月に公開した「院内がん登録2020年全国集計」によると、全国のがん診療連携拠点病院において初回の治療が始まる段階で患者本人に病名を告知した割合は、2020年時点で93.6%に上るという。

現在は9割以上の割合でがん告知がなされているわけだ。そうすると、ハリスさんの主治医の行為は少し不自然に感じてしまう。

ただ、ハリスさんのがんが見つかったのは2006年のことだ。上記の統計は2016年にスタートしているので、2006年の具合は計れない。ほかの告知率に関する統計を探っても当時の推移を調べたものは見当たらなかった。

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