また冒頭に記したとおり、昨年には車に撥ねられるという不幸もあったほか、麻取(麻薬取締部)が家を訪れる、という出来事もあったというから、もはや苦笑せざるを得ない。
「ある日、自宅にドイツからMDMAが4000錠近く届いたんです。そのせいで、税関と麻取が家宅捜索にやって来たのですが、もちろん一切の身の覚えがなくて……。よくよく考えたら、以前知り合いの研究者に『海外から届く荷物を受けとっておいてほしい』といわれたんですね。それやったんですかね? まあ真相は謎ですけど、そのMDMAの末端価格は5000円と麻取のお兄ちゃんが言うてはって、正直『2億円か……』と良からぬことを一瞬、考えてしまいました。この1年、本当にいろいろありましたね」
好きなことができたから後悔はない
一度不運が起きると、転がるようにいろいろと不運に見舞われる奥山さん。「いろいろな制度の狭間にはまってしまった感じです」と話すが、自分自身では納得しているところもあるという。
「僕がこの道を選んだのは、自分がやりたい研究があったためで、不幸を誰かのせいにするつもりはありません。確かに今の自分は報われていないのかもしれませんが、その一方で好きなことはやらせてもらえました。
お金のことで長年苦労していますが、それでも特に自分は裕福な家庭出身でもないので、昔だったら大学院進学なんてできなかったし、就けるはずもなかった研究職にも就けた。そこは奨学金制度の恩恵ですし、だからこそ、お金には困っているけど、後悔はありません。
とはいえ、『大学院での研究は本来、お金持ちの家の子がすることであって、奨学金をもらってまで自分がやることではなかったのかな?』とは、たまに思ってしまうのも事実ですけどね」
不幸は山積みだが、奨学金のおかげで夢を叶えられたと語る奥山さん。本人にそこまでの悲壮感はなく、大阪人特有なのか自身のカッコウ悪い話を明るくして、筆者を笑わせようとする姿が印象的だった。
また、取材の最後には「研究者になりたいという、若者の志を挫かなければいいなと思っています」と、後輩への配慮を見せる一幕も。そんな奥山さんの今後の活躍に期待しつつ、今後返済を迎える/返済中の読者には、彼の人生からなにか学びを得てもらえると幸いである。
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