「奨学金600万円」運に見放された56歳彼の諦念 「お金には困っているけど、後悔はないんです」

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また冒頭に記したとおり、昨年には車に撥ねられるという不幸もあったほか、麻取(麻薬取締部)が家を訪れる、という出来事もあったというから、もはや苦笑せざるを得ない。

「ある日、自宅にドイツからMDMAが4000錠近く届いたんです。そのせいで、税関と麻取が家宅捜索にやって来たのですが、もちろん一切の身の覚えがなくて……。よくよく考えたら、以前知り合いの研究者に『海外から届く荷物を受けとっておいてほしい』といわれたんですね。それやったんですかね? まあ真相は謎ですけど、そのMDMAの末端価格は5000円と麻取のお兄ちゃんが言うてはって、正直『2億円か……』と良からぬことを一瞬、考えてしまいました。この1年、本当にいろいろありましたね」

好きなことができたから後悔はない

一度不運が起きると、転がるようにいろいろと不運に見舞われる奥山さん。「いろいろな制度の狭間にはまってしまった感じです」と話すが、自分自身では納得しているところもあるという。

「僕がこの道を選んだのは、自分がやりたい研究があったためで、不幸を誰かのせいにするつもりはありません。確かに今の自分は報われていないのかもしれませんが、その一方で好きなことはやらせてもらえました。

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お金のことで長年苦労していますが、それでも特に自分は裕福な家庭出身でもないので、昔だったら大学院進学なんてできなかったし、就けるはずもなかった研究職にも就けた。そこは奨学金制度の恩恵ですし、だからこそ、お金には困っているけど、後悔はありません。

とはいえ、『大学院での研究は本来、お金持ちの家の子がすることであって、奨学金をもらってまで自分がやることではなかったのかな?』とは、たまに思ってしまうのも事実ですけどね」

不幸は山積みだが、奨学金のおかげで夢を叶えられたと語る奥山さん。本人にそこまでの悲壮感はなく、大阪人特有なのか自身のカッコウ悪い話を明るくして、筆者を笑わせようとする姿が印象的だった。

また、取材の最後には「研究者になりたいという、若者の志を挫かなければいいなと思っています」と、後輩への配慮を見せる一幕も。そんな奥山さんの今後の活躍に期待しつつ、今後返済を迎える/返済中の読者には、彼の人生からなにか学びを得てもらえると幸いである。

本連載「奨学金借りたら人生こうなった」では、奨学金を返済している/返済した方からの体験談をお待ちしております。お申し込みはこちらのフォームよりお願いします。奨学金を借りている/給付を受けている最中の、現役の学生の方からの応募も歓迎します。
千駄木 雄大 編集者/ライター

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せんだぎ・ゆうだい / Yudai Sendagi

編集者/ライター。1993年、福岡県生まれ。奨学金、ジャズのほか、アルコール依存症に苦しんだ経験をもとにストロング系飲料についても執筆活動中。奨学金では識者として、「Abema Prime」に出演。編集者としては「驚異の陳列室『書肆ゲンシシャ』の奇妙なコレクション」(webムー)なども手掛ける。著書に『奨学金、借りたら人生こうなった』(扶桑社新書)。原作に『奨学金借りたら人生こうなる!?~なぜか奨学生が集まるミナミ荘~』がある。毎月、南阿佐ヶ谷トーキングボックスにて「ライターとして食っていくための会議」を開催中。

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