「奨学金600万円」運に見放された56歳彼の諦念 「お金には困っているけど、後悔はないんです」

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奥山さんは研究者としてのスタート地点に立つまで、相当な年数苦労を積み重ねたことになるが、2010年代に入ると40代でようやく国立大学の専任講師に着任できた。

「昔みたいにどこかの大学の教授から一本釣りでスカウトされる時代でもないため、専門サイトで公募が出るのを待つという、普通の就職と一緒の形でしたね。ただ、国立大学といっても大学の先生の給料は教授になろうが、何十万円も上がるわけでもなく、精々月に2〜3万円と聞いてます。私大だったら、もう少し変わったかもしれませんが、国立大学は国家公務員の給料と同じベースです。

それでも、一口で講師といっても専任講師と非常勤講師だと給与も待遇も全然違っていて、専任講師はいわばフルタイムの雇用形態。身分保障もされていて、年収も600万〜700万円はありました」

当時の奥山さんが就職したのは首都圏の大学。家族は関西に残して単身赴任のような形だった。そのため、毎月家族のもとに戻るための交通費がかさむ。また、大学教員は研究費の持ち出しが多く、学会への出席や研究に必要な書籍の購入もあり、収入はあっても生活が楽だったことはなかったという。

それでも、3年間専任講師を勤めた後に、ついに同大学の准教授に昇格することができた。

突然、大学をクビに…その不運な理由

ところで、今は教授や専任講師になろうとも、奨学金が免除されることはないが、奥山さんが借りていたのは日本育英会の時代だったため「​​返還特別免除制度」がまだ生きていた。これは日本学生支援機構(JASSO)の今では廃止されている「政令に定められた教育又は研究の職(以下、免除職)に就いたときの免除制度」であり、平成15年度(2004年3月31日)以前に大学院で第一種奨学金を貸与された者が対象となる。

当然、奥山さんも専任講師時代から奨学金の返済は猶予・免除されていたのだが、話は急展開する。突如、大学から追い出されてしまったのだ。

「准教授にもなったので『これで失職の心配はないやろな』と考えていたところ、『契約の延長はしない』という通告を大学から受けてしまって……。僕と同じ時期に3人、『任期付』という立場で大学に就職したのですが、自分だけがクビになったんですよね(笑)。

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