80代の「現代詩人」の詩が若者世代に響く意味 吉増剛造さんの作品に影響を受けた若き音楽家

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――劇中の吉増さんは、土方巽の音声の入ったテープを流したり、萩原朔太郎の顔写真をドローイングするガラスに貼ったりと、自分のクリエーティビティーの中にあえて他の作家のエッセンスを取り入れています。そのことに関してはどのように感じましたか。

吉増さんのインタビューなどを読んでいると「あの時、~は~と言っていた。それに対して、~は~と言っていた」というコメントがたくさん出て来ます。ご自分の中で古典の系譜が出来上がっているのではないかと。

語弊を恐れず言ってしまいますが、土方巽の音声や萩原朔太郎の写真はある種のサンプリングなのだろうと感じました。作品の一部を切り取って自分の作品に利用して古典へのリスペクトをしている。

ここ30年ぐらい、音楽にはそのやり方が実践されていますが、吉増さんの試みはそれに近いと感じました。

――かつて、文化の情報を伝える場は雑誌でした。編集者が目利きでその雑誌に出たら「一流」というお墨付きが与えられるというような風潮があったのですが、今は膨大な情報量のインターネット空間の中から一人ひとりが自分に合ったものを選ぶ時代です。

ネット世代やデジタルネイティブの世代は、「プロの目を介さない」自然発生型で文化が伝播しているように思います。もちろん誰が見ても、いいものはいいので、その良さはあります。でも、悪いところは情報量が多すぎるところで、その中で自分に合ったものを探していくことは難しい。

しかし、今の情報量の多さは淘汰に向かうのではないでしょうか。僕自身は「自分に合ったものを探し求めてWeb空間を彷徨う」ことはなく、ひたすら本を読んだりしていますね。そのほうが自分の感覚にしっくりくるというか。

ちなみに、僕が吉増さんの作品のファンであることを公言することで、若い人たちが吉増さんの著作を手に取るようなことも起きています。それがとてもうれしくて。インターネット上にはたくさんの情報があふれていますが、やはり、人から人への文化の伝承はなくならないのではないかと感じています。

音楽の楽しさを伝えたい

――今の時代に音楽で伝えたいことはありますか。

「音楽は楽しい」ということを伝えたいです。それを作品やライブで伝えていきたい。

また、自分は精神的にとてもつらい時期を音楽に助けられました。自分自身が自分の受け皿として作っている部分もあります。なので、今、つらい状況にある人たちにとって自分の作品が受け皿になれたらいいと思っています。

光が差し込まず真っ暗な場所にも、シュッとマッチで火を灯すようなことがしたい。そこに自分が音楽を作る意味があると感じています。

熊野 雅恵 ライター、行政書士

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くまの まさえ / Masae Kumano

ライター、合同会社インディペンデントフィルム代表社員、阪南大学経済学部非常勤講師、行政書士。早稲田大学法学部卒業。行政書士としてクリエイターや起業家のサポートをする傍ら、映画、電子書籍の企画・製作にも関わる。

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