80代の「現代詩人」の詩が若者世代に響く意味 吉増剛造さんの作品に影響を受けた若き音楽家

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――主に奏者として活動していた君島さんが歌うことのきっかけにもなったと聞きました。

作詞作曲をしてひとりで歌ったりもしていましたが、それを人前でリリースはしていませんでした。良い言い方をすればタイミングを見計らっていたのかもしれないし、悪い言い方をしたら自分自身がとても閉じていたので、人に聞かせないようにしたというか……。

その時に吉増さんの朗読を聴いて、ショックを受けました。というのも、吉増さんの詩を読んでいる間に「この本を読むときはこの音声で再生されるだろう」と自分の中で声ができあがっていたのですが、吉増さんの声を聞いたことによって、その合成音声が一気に崩れました。その衝撃が、「自分で歌って作品を完成させよう」という方向に向かわせたような気がしています。

音楽家からみた詩の世界

――君島さんの楽曲はメロディーラインと歌詞がずれるようなところもありますよね。そのことも吉増さんの作品から影響を受けているのでしょうか。

吉増さんは、詩の書き方が肉体的で原稿用紙からはみ出ていく感じの詩の表現をされています。4年ぐらい前に松濤美術館でやっていた吉増さんの展示『涯(ハ)テノ詩聲(ウタゴエ)詩人 吉増剛造展』(2018年8月~9月)に「火ノ刺繍」という作品があるのですが、その作品の「はみ出していく感じ」に影響を受けています。

僕自身は、メロディーラインと歌詞をずらすことで、聴いてる人にアベレージ(平均)を取ってもらっているというか。音楽は聞いたままがすべてではなく、聞き手が自分でイメージする部分もあります。なので、少しずつずらすことで「中心が見えてくる」ことを狙っています。それが心地良いのではないかと。同世代でもそういう手法を取っているアーティストはいます。

――インタビューでは「言葉ではっきり言いたくない」と発言していますが、音楽家である君島さんにとって、言葉だけで物事を伝える文学はどのような存在なのでしょうか。

音楽にした時にすごく制約が出てくるのが言葉だと思います。詩と小説は、音の制約がない分、解き放たれていると感じます。

音楽は最終的にはやはり音に「落とし込む」行為が必要なので、言葉を削がなければならないことが多い。「こういう曲にしたい」と思って書いた詩と歌の詩は結果的に異なることも多いです。

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