今の若者たちはなぜ「絶対に失敗したくない」のか 自己責任論が生んだ「ゼロリスク世代」の未来像

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稲田:でも、彼らにとってTikTokを見るのはムダな時間ではないと思います。映画やドラマを観るのは能動的で積極的な行為、つまりdo。しかし、彼らが求めているのは心地いい状態や状況をダラダラと続けること、つまりbe。beの最たるものがTikTokじゃないですか。

金間:なるほど、そこに積極性はない。

稲田:なんとなくフリックしながら無目的に大量の動画を見続ける。つまらなかったらどんどん「次」に行けばいい。一瞬たりとも不快のない、心地いい状態が長時間続くのは、ある意味で「コスパがいい」とも言えます。

両氏の研究は同じ現象を別の側面から捉えたもので、共通項が多いと盛り上がった(写真:著者提供)

「推し」には責任がない

金間:学生へのアンケートで「あなたが何かに挑戦しようとしているとき、それをためらってしまう要因はなにか」と聞くと、「自分の能力ではできないから」が1位になります。これが、いい子症候群を生む日本の根源的な原因ではないかと私は考えています。つまり、自己肯定感の弱さです。

「十分練習したからうまくいくはずだ」と思うのは自信のある状態を指しますが、自己肯定感とは、根拠がなくても、自分なら大丈夫だと思える状態です。日本人は、訓練をして自信をつけることはできますが、自己肯定感が低く、備えれば備えるほど「できない」と思うようになっていくのが不思議です。

稲田:「この作品が好き」などと声高に言えない若者が多いのも、自己肯定感が低いからかもしれません。○○が好きだと言ったとたん、「へー、なら○○についてはお前が一番詳しいんだろう」と言われてしまうのが怖い。

下手に「好き」なんて言えない代わりに重宝されているのが「推し」という言葉です。推しは、ただ謙虚に応援しているだけという姿勢の表明ですから、責任が伴わないんですよね。これも積極的に踏み出すdoではなく、心地良い状況に浸るbeです。

金間:リアルの世界でも「推し」は好んで使われますね。会社や学校で、「私、あの先輩推しなんだ」とか。こんな話があります。20代の後輩女性社員が自分を推していると聞いた先輩が、てっきり自分のことを好きなんだと思って告白したそうです。ところがすぐに断られた。「ごめんなさい。推しってそういうことじゃないんです」と……。

稲田:痛い(笑)。先輩や上司をキャラ化して、離れたところからそっと見ている状態、つまりbeとしての推し行為が快適なのであって、べつに能動的に交際したいわけではないと。交際しようとするアクションは完全にdoですからね。

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