グーグルの会議室はなぜ「ふざけた名前」なのか 成長企業のオフィスが「まるで遊園地」な深い訳

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「アニメーション・エリアの下の階を歩いてみれば、もうやりたい放題なのがわかりますよ。オフィスの外観を西部劇風にする人がいるかと思えば、ハワイ風にする人もいたりしてね」

あるオフィスの前を通りかかると、壁にアーチ型の枠が描かれていた。私たちの戸惑った様子を見て、キャットマルが説明してくれた。

ピクサー社では昔からオフィスの壁は白と決まっている。アニメーターたちが自由自在に絵を描くための真っ白なキャンバスだ。

ところがあるとき、さらに大胆なことをやってのけた社員がいた。壁をアーチ型にくり抜いて、オフィスの前を通り過ぎる人たちを室内から眺められるようにしたのだ。

やがてその社員は異動となったが、新しくそのオフィスを使うことになった社員は、壁の穴をすっかり埋めてしまった。ただし前任者に敬意を表して、アーチ型の枠を描いて残してあげたのだ。

新たな伝統が生まれる余地をつくる

ピクサー社がオフィスの個性化を許容しているのは、職場においても陽気さが大切だというキャットマルの哲学を象徴している。

「有機体というのは、始まりがあれば終わりがあるということです」と、キャットマルは語っている。「私たちは伝統を育み、発展させ、やがて有機体として死なせることで、新しい伝統に場を譲るのです」

伝統はしがみつくものではない、とキャットマルは考えている。廃れていく伝統があるいっぽうで、新たな伝統が生まれて取って代わるのだ。

あのオフィスの壁のアーチのように、リーダーたちは古い伝統に敬意を払いつつ、新たな伝統が生まれる余地をつくるために、廃れゆくものは葬らなければならない。

自分たちが適切な種をまき、ふさわしい人材を活用してこそ、オフィスという物理的空間において、新たな儀式や伝統が生まれるのだと信じなければならない。

(翻訳:神崎朗子)

ジェニファー・アーカー スタンフォード大学ビジネススクール教授、行動心理学者

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Dr. Jennifer Aaker

スタンフォード大学ビジネススクールのゼネラル・アトランティック・プロフェッサーで行動心理学者。目的と意義が個人の選択に及ぼす影響や、テクノロジーが人間の幸福や企業の成長にプラスの影響をもたらす可能性に関する研究の第一人者。博士の研究は『エコノミスト』『ニューヨーク・タイムズ』『ウォールストリート・ジャーナル』『アトランティック』『サイエンス』などの主要紙誌でも紹介されている。Distinguished Scientific Achievement Award(科学部門顕著業績賞)、MBA年間最優秀教授賞などを受賞。

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ナオミ・バグドナス スタンフォード大学ビジネススクール講師、エグゼクティブ・コーチ

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Naomi Bagdonas

スタンフォード大学ビジネススクール講師、エグゼクティブ・コーチ。組織のリーダーやフォーチュン100社、非営利組織などに向けたインタラクティブなセッションを促進し、エグゼクティブやセレブリティが『サタデー・ナイト・ライブ』や『トゥデイ』等の番組に出演する際の指導も行っている。〈アップライト・シチズンズ・ブリゲード・シアター〉で正式なトレーニングを受けたバグドナスは、劇場の舞台に立ってコメディーを実演し、サンフランシスコ郡刑務所では、レジリエンスを高めるための即興コメディーを教えている。

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