「アニメーション・エリアの下の階を歩いてみれば、もうやりたい放題なのがわかりますよ。オフィスの外観を西部劇風にする人がいるかと思えば、ハワイ風にする人もいたりしてね」
あるオフィスの前を通りかかると、壁にアーチ型の枠が描かれていた。私たちの戸惑った様子を見て、キャットマルが説明してくれた。
ピクサー社では昔からオフィスの壁は白と決まっている。アニメーターたちが自由自在に絵を描くための真っ白なキャンバスだ。
ところがあるとき、さらに大胆なことをやってのけた社員がいた。壁をアーチ型にくり抜いて、オフィスの前を通り過ぎる人たちを室内から眺められるようにしたのだ。
やがてその社員は異動となったが、新しくそのオフィスを使うことになった社員は、壁の穴をすっかり埋めてしまった。ただし前任者に敬意を表して、アーチ型の枠を描いて残してあげたのだ。
新たな伝統が生まれる余地をつくる
ピクサー社がオフィスの個性化を許容しているのは、職場においても陽気さが大切だというキャットマルの哲学を象徴している。
「有機体というのは、始まりがあれば終わりがあるということです」と、キャットマルは語っている。「私たちは伝統を育み、発展させ、やがて有機体として死なせることで、新しい伝統に場を譲るのです」
伝統はしがみつくものではない、とキャットマルは考えている。廃れていく伝統があるいっぽうで、新たな伝統が生まれて取って代わるのだ。
あのオフィスの壁のアーチのように、リーダーたちは古い伝統に敬意を払いつつ、新たな伝統が生まれる余地をつくるために、廃れゆくものは葬らなければならない。
自分たちが適切な種をまき、ふさわしい人材を活用してこそ、オフィスという物理的空間において、新たな儀式や伝統が生まれるのだと信じなければならない。
(翻訳:神崎朗子)
記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
印刷ページの表示はログインが必要です。
無料会員登録はこちら
ログインはこちら
無料会員登録はこちら
ログインはこちら