グーグルやフェイスブックなどの巨大IT企業が「ハートにファイアフォックス(We Didn’t Start the Firefox)」〔ビリー・ジョエルの曲「ハートにファイア」(We Didn’t Start the Fire)をもじっている〕などといったふざけた名前の会議室でミーティングを行うのには、ちゃんとわけがある。
従業員たちに対して微笑のようにさりげなく、「陽気さは大歓迎」というメッセージを送っているのだ。
卓球台やトランポリン、会議室を連結するカラフルなパーティションなど、巨大IT企業の過剰なまでの設備にあふれた職場環境については、誰もが耳にしたことがあるだろう(実際、そうなっているのだ)。
たしかにオフィス空間をまぎれもない遊び場にすれば陽気さを育むことができるが、それだけが唯一の方法ではない。
作業空間デザインを従業員たちの裁量に任せることから、植物を置く、明るい色使いをするといった単純なことまで、さまざまな環境要因が従業員たちの意欲や幸福感を高め、生産性や創造力を高めることが、研究によって明らかになっている。
視覚的な手がかりが創造力を刺激する
スタンフォード大学の組織心理学者、ジャスティン・バーグは、「プライマルマーク」という、従業員がアイデアを生み出すときに最初に目にする視覚的な手がかりが、アイデアの斬新さや有用性の決め手となることを示した。
プライマルマークが意外なものや突飛なものだったりすると、創造力が刺激されることが多いのだ。
実際に私たちが見たなかで、オフィス空間に最大の効果をもたらした例はどれもきわめてシンプルで、まるでさりげないウインクのように、「仕事もするけど、遊びもね」というメッセージをつねに発信していた。
たとえば、IT企業ジブジャブのリーダーたちがロサンゼルス本社のオフィス空間のデザインを初めて考案したとき、彼らは会社の基本理念を書いた巨大な看板をいくつも下げることにした。そのひとつが「AGILITY(敏捷性)」だ。
いや正確に言えば、「AGILITY」となるはずだった。ところが、実際にはなんと「AGLITITY」と書かれていたのだ。