フィリピンの団結を訴えても社会分断は深いまま マルコス大統領就任100日、歴史修正の動きも

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歴史修正が本格化するかどうかは、今後、教科書が書き換えられるか、8月21日が休日であり続けるか、大統領の納税問題や既に有罪判決が出ている母イメルダ夫人の刑事裁判の行方などによって判断されるだろう。

大過ない滑り出しのようにみえる新政権だが、前途は平坦とはいえない。

選挙中の数少ない具体的な公約に、コメの消費者価格を1キログラム20ペソ(約50円)以下にするというものがあったが、就任後は言及しなくなった。とても無理だからだ。

縁故主義、身びいきが広がる懸念

コメに限らず野菜や食肉など食料品を中心にインフレが加速している。2022年9月のインフレ率は、2018年11月以来最高となる6.9%を記録、ペソの対ドルレートは過去最安値を更新している。政府債務は過去最高の13兆ペソ(約32兆円)を突破した。ドゥテルテ前政権発足時には6兆ペソ(約14兆円)弱だったが、コロナ対応などで倍以上に膨らんだ。

指名したばかりの官房長官や大統領広報官が相次いで辞任するなど、政権内での不協和音も聞こえてくる。そのようななか、2022年10月2日にシンガポールで催されたF1レースをマルコス家がお忍び観戦したというニュースが飛び込んできた。

ボンボン夫妻や息子らが映ったSNSが投稿され、ばれたのだ。後追いで大統領府は事実を認め、「生産的な旅だった」と弁明した。費用の出どころを記者に聞かれた官房長官は「どうでもよいことだ。大統領にもプライベートな休息は必要だ」として公費か私費かを明らかにしなかった。

大統領は国軍の最高司令官であり、外遊時は職務の代行者を指名する。軍用機を使い、軍の警護担当者も引き連れてお忍びで週末を海外で過ごすとは、とんでもない話に思えるし、野党や新聞などの一部メディアは強く批判した。ところが与党議員やマルコス支持者、インフルエンサーから苦言が寄せられることはない。

日本に比べ、フィリピンでは公私の境が概してあいまいである。とくにマルコス家は、父の代からその傾向が強いことで知られている。公私の境が溶けてゆくほど縁故主義や身びいきが激しくなる。こうしたことが続けば、分断はさらに深まるであろう。

柴田 直治 ジャーナリスト、アジア政経社会フォーラム(APES)共同代表

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しばた・なおじ

ジャーナリスト。元朝日新聞記者(論説副主幹、アジア総局長、マニラ支局長、大阪・東京社会部デスクなどを歴任)、近畿大学教授などを経る。著書に「ルポ フィリピンの民主主義―ピープルパワー革命からの40年」、「バンコク燃ゆ タックシンと『タイ式』民主主義」。

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