フィリピンの団結を訴えても社会分断は深いまま マルコス大統領就任100日、歴史修正の動きも

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

その「団結」については、2022年6月30日の就任演説でも「選挙期間中、他候補を攻撃しなかった」と強調、「国民は、分断の政治を拒否した」と胸を張った。確かに大統領本人が特定の相手を攻撃することはなく、「やさしい人」とのイメージづくりに成功している。

しかしながら、取り巻き、とくに選挙前からマルコス陣営を組織的な投稿で支持し、虚偽情報で対立候補を貶める戦術を展開した「トロ―ルアーミー」「トロールファーム」と呼ばれるSNS発信集団は、選挙後も野党やメディア、反マルコス陣営への攻撃の手を緩めていない。政権に批判的だったジャーナリストの殺害事件も起き、社会の分断が癒えたとはとても言えない状況だ。

記者会見を開かない大統領

トップに立つものが自ら反対派に耳を傾け、分断を修復する姿勢を示さない限り、事態は改善しないと思われるが、大統領からその意思は伝わってこない。例えば、2022年8月21日の「ニノイ・アキノ・デー」。マルコス父の独裁時代に野党の上院議員だったアキノ氏が亡命先のアメリカから帰国した直後にマニラ国際空港で射殺された日にちなみ休日となっている。

ドゥテルテ氏も含めて歴代大統領はニノイ氏に敬意を表す声明を出してきた。しかし今年は大統領からのメッセージはなかった。この暗殺事件を境に反マルコス運動が広がり、1986年の政変、一家の追放につながったからだろう。

他方、マルコス支持者のSNSでは「ニノイは英雄などではない」「NPA(共産党傘下の新人民軍)の手先だった」などとする投稿が多数見られた。ネットメディア「ラップラー」によると、少なくとも3つの警察署を発信元とするツイッターで「ニノイは共産主義テロリスト」とする投稿がなされた。警察本部が調査すると宣言し、投稿は削除されたが、投稿主や意図は不明のままだ。

2022年9月21日は、マルコス父が戒厳令を発布してから50周年の記念日だった。多数の人々が政権によって拘束、弾圧、殺害された強権政治を忘れないとする集会や展示会が各地で催された一方で、SNS上には「戒厳令で治安は良くなった」「弾圧などは作り話」などの投稿があふれた。

2022年5月の選挙でマルコス陣営から当選したジンゴイ・エストラダ上院議員は議会で、ボンボン氏が史上最多の3100万票を獲得したことから、戒厳令の被害について「免罪された。マルコス家は謝罪する必要などない」とで証言した。

次ページ果たされない説明責任
関連記事
トピックボードAD
政治・経済の人気記事