フィリピンの団結を訴えても社会分断は深いまま マルコス大統領就任100日、歴史修正の動きも

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対外的には、他の首脳に先駆けてアメリカのバイデン大統領から当選祝いの電話が入ったことが大きかった。ボンボン氏は、父の時代の人権侵害に関連するアメリカ国内の訴訟で法廷侮辱罪に問われ、3億5000万ドルの罰金支払いを命じられたものの支払ってこなかったため、訪米すれば拘束されるおそれが指摘されていた。

バイデン氏の電話の後、アメリカ国務省高官がマニラを訪れ、「外交特権による免責が適用され、アメリカには自由に入国できる」と大統領就任前のボンボン氏に直接告げた。

ボンボン氏は2022年9月の国連総会にあわせて訪米し、バイデン大統領と22日に首脳会談を行った。バイデン氏が「両国には揺れ動く時期もあったが、重要な関係であることは明らかだ」と話すと、ボンボン氏は「私たちはアメリカのパートナーであり、同盟国であり、友人だ」と返した。

アメリカを尊重、中国への対応も変化

前政権下でアメリカとフィリピンの関係はぎくしゃくしていた。ドゥテルテ氏は最重点政策の麻薬撲滅戦争で多数の超法規的殺人が繰り返されたことをアメリカ政府や議会が批判するたびに激高し、オバマ大統領(当時)に悪態をついたり、訪問アメリカ軍地位協定(VFA)の破棄を通告(その後撤回)したりした。

かつての宗主国であり、長く同盟関係にあるアメリカとしては政権交代を機によりを戻そうとし、マルコス大統領もそれに応えたのだ。

アメリカ政府がいち早くマルコス大統領に接近した裏には中国の存在がある。

アメリカ嫌いを公言するドゥテルテ氏は任期中に一度も訪米しなかった一方で中国訪問を重ね、習近平国家主席とも緊密に連絡を取りあった。

バイデン大統領は会談で、フィリピンとの同盟関係を改めて確認するとともに南シナ海問題についても言及した。

中国とフィリピンなどが領有権を争う南シナ海をめぐっては、アキノ政権が2013年に中国を相手取りオランダ・ハーグの常設仲裁裁判所に提訴し、2016年に全面勝訴の判決を得たが、ドゥテルテ氏はこれを棚上げする形で中国に接近していた。

ボンボン氏も立候補宣言後の2021年10月、在フィリピン中国大使館を訪れて大使と懇談した際に、ハーグ判決を「もはや役に立たない」などと発言した。こうしたことから多くの日本のメディアもマルコス新政権も中国寄りになると観測していた。

ところが新大統領は2022年年7月、就任後初の施政方針演説で「外国の圧力によって領有権をわずかでも譲るつもりはない」と明言した。バイデン大統領との会談でも「地域での平和維持におけるアメリカの役割について高く評価している」とし、南シナ海問題について「両国がともに果たすべき役割について、さらに話し合いたい」と語った。

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