僕は22歳で劇団を旗揚げしました。劇団の主宰者であり演出家ですから、バリバリのリーダーです。先頭に立って、みんなをぐいぐい引っ張って、いろんなことをちゃんと決めようとしました。
でも、すぐに、行き詰まりました。
例えば、毎日の稽古をどれぐらいしたらいいか、適切な稽古量はどれぐらいなのか、どの部分の稽古をしたらいいのか、決めなければいけないことがたくさんあって、ひいひい言うようになりました。特に、自分のことが大変で、劇団員に対して心を配れなくなると、どんな指示を出していいのか分からなくなりました。
一輪車さんと同じですね。
で、ある時、「ああ、明日、どこを稽古したらいいか分からない。どうしよう」と困り、思わず、「迷ってるんだけど、明日、このシーンを稽古したいっていう希望ある?」と聞いてみました。
最初、みんなはキョトンとしました。演出家というものは、常に的確な指示を出す人で、迷いを見せる存在だとは思われてなかったからです。でも、俳優やスタッフは徐々に、「俺はこのシーンをやりたい」とか「私はこの部分をもう一度稽古したい」と言ってくれました。
希望がたくさん出て、さあ、どうしようと思った時に、また「希望がたくさんなんだけど、明日の稽古時間は×時間だから、全部は無理なんだよね」と言いました。すぐに、「じゃあ、僕はちょっとの稽古でもいいから」とか「私はじっくりやりたいの」とか、みんな、口々に言ってくれました。
その言葉を聞いて、僕は明日の予定を決められました。
みんなの頭を使わせてもらう
一人で決めている時より、ずっと楽に的確な予定が作れたと思います。劇団員が、おおむね、満足したからです。
僕は「なんだ。自分の頭だけじゃなくて、みんなの頭を使わしてもらえばいいんじゃないか。聞くだけで、ずいぶん、楽になるぞ」とホッとしました。
それまでは、リーダーというものは、なんでも自分で全部考えて、自分で決めて、自分で責任を取らないといけないと思い込んでいたからです。
それ以降、僕はリーダーと呼ばれる人を観察するようになりました。
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