和田秀樹「60代以降に衰える人・衰えない人の差」 急に怒り出す人が増えるのは前頭葉萎縮が原因

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年とともに衰えるのは脳だけではありません。いかに見た目が若くとも、身体機能や体力は年々衰えていきます。

体力を示す指標の一つが、単位時間あたりに組織が酸素を取り込む最大量を示す「最大酸素摂取量」です。もっとわかりやすくいうと、呼吸で取り入れた酸素が、炭水化物や脂肪を燃焼させ、エネルギーとして取り出す能力を表しています。

この数値は、20代から80代にかけて減っていきます。しかし、これにしても毎日トレーニングを続ければ、80代になっても最大酸素摂取量を20~30代の人と同レベルに保つことができます。「自分はこれまで運動してこなかったから、今から体力をつけるなんて無理だ」と思い込んでいる人であっても、60代からトレーニングを始めるのは決して遅くはありません。つまり、人間の体は使い続けることで、高いレベルを維持することができるのです。

実際、「ねんりんピック」のような高齢者のスポーツ大会を見ると、多くの60代、70代が好成績をあげています。この「使い続けることが大切」という考え方は、60代以降の人が生きる上で、忘れないでほしいマインドの一つです。

60代以降のほうが、個人の差が大きく開く

60代以降は、体も脳も使わなければ衰えてしまいます。だからこそ、60代から使い続けた人と使わずに放置していた人とでは、10年、20年経過した際の差は歴然です。

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若い頃であれば、50メートル走を走っても、一番早い人で6秒ほど。一番遅い人でも15秒くらいだったと思いますが、60代、70代くらいになると若い人と同じように6秒台で走れる人もいれば、もはや歩くことすらできない人も出てきます。歳を取れば取るほど、「老いと上手に付き合ってきた人」と「付き合ってこなかった人」の間の個人差が大きくなるのです。

2060年には、日本国民の約2.5人に1人が65歳以上の高齢者になると予測されています。つまり、社会で高齢者が占める割合が非常に高くなっていきます。そのなかで、個人の身体能力や脳機能が大きく多様化していくので、今後の社会では大きな「健康格差」が問題になるでしょう。自分がどの立ち位置に置かれるのかは、60代以降の人生の歩み方が大きく左右するのではないかと私は考えています。

和田 秀樹 精神科医

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わだ ひでき / Hideki Wada

1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、米国カール・メニンガー精神医学校国際フェロー、浴風会病院精神科医師を経て、現在は和田秀樹こころと体のクリニック院長。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わる。『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『80歳の壁』(幻冬舎新書)、『60歳からはやりたい放題』(扶桑社新書)、『老いたら好きに生きる』(毎日新聞出版)など著書多数。

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