円よりヤバい「ポンド急落」でイギリス大わらわ 英新首相「減税の大ばくち」で経済は大混乱
それでもイギリス政府は9月23日、その衝撃を倍加させた。年間15万ポンド(約2350万円)を超える所得に課されている45%の税率区分を廃止し、所得税の最高税率を引き下げるという、クワシ・クワーテング財務相による突然の発表によって、だ。
クワーテング氏はこの提案を、政府予算案が通常受ける審査にかけなかった。そのため、歳出削減と対応しない減税によってイギリス財政に穴が開くのではないか、という懸念が強まった。
1976年にイギリスを救済した国際通貨基金(IMF)が政府に減税の見直しを促したことで、不安はさらに深まった。IMFは声明で、減税は格差を広げ、財政政策と金融政策を互いに矛盾させることになると述べた。
さらなる金利上昇の懸念は、すでに住宅市場の停滞につながっていた。イギリスでは住宅ローン大手2社が、市場金利の乱高下を理由に新規貸付けの停止を発表。ポンドが急落すれば、金利はインフレ抑制に必要なレベルを超えて跳ね上がることになる。
「鉄の女2.0」とサッチャーの違い
党首選でトラス氏が手本としたのは、マーガレット・サッチャー氏だった。サッチャー氏が首相になった当時も、イギリス経済は大揺れとなっていたが、同氏は自由市場政策を打ち出し、首相就任後の不穏な数年間を乗り切った。
とはいえ、サッチャー氏はトラス氏とは異なり、インフレの抑制と財政の立て直しに気を配った。実際にサッチャー氏は1981年の不況期にさえ、いくつかの増税に踏み切っている。減税を行ったのは、その後だ。