木戸は人からよい意見を聞くと感心しながらも、そこに自分の考えを足して、実行に移すのが常だった。こだわりが強い木戸らしいが、大久保の場合は、人の意見がよければ、そのまま用いることが多かった。多くの説が寄せられた場合は、そのなかからベストのものを選んで、そのまま実行に移したという。
大久保自身も考えがあったに違いないが、スピードを重視したのだろう。また、木戸のように自分の意見を含めてしまうと、発案者の狙いから離れてしまい、結果が出にくくなると考えていたのかもしれない。
優秀な人に任せ、改革を並行してどんどん進めていく
「郵便の父」と呼ばれる内務官僚の前島密は、そんな大久保に重用された1人である。明治8年には、郵便局での「貯金業務・為替業務」をスタートさせている。
また、鹿児島出身の川路利良も大久保に引き立てられて、警察機構を全国的に組織化させた。そうして重点項目として挙げた「地方の取締の整備」も、優秀な官僚に任せながら、大久保は確実に前進させている。
並行して改革をどんどん進めていくのが、大久保のスタイルだ。大久保が「近代日本の礎を築いた」と評されるゆえんだろう。
だが、これらの事業を行うためには、財政面で大きな問題があった。何より必要とされたのは生産者だが、実際には非生産者である士族に、莫大な支出がなされていた。
根本的な問題を解決するため、大久保は大ナタを振るう。だが、大久保らしい待ったなしの改革によって、士族たちは不満を高めることになった。
(第51回につづく)
【参考文献】
大久保利通著『大久保利通文書』(マツノ書店)
勝田孫彌『大久保利通伝』(マツノ書店)
西郷隆盛『大西郷全集』(大西郷全集刊行会)
日本史籍協会編『島津久光公実紀』(東京大学出版会)
徳川慶喜『昔夢会筆記―徳川慶喜公回想談』(東洋文庫)
渋沢栄一『徳川慶喜公伝全4巻』(東洋文庫)
勝海舟、江藤淳編、松浦玲編『氷川清話』(講談社学術文庫)
佐々木克監修『大久保利通』(講談社学術文庫)
佐々木克『大久保利通―明治維新と志の政治家(日本史リブレット)』(山川出版社)
毛利敏彦『大久保利通―維新前夜の群像』(中央公論新社)
河合敦『大久保利通 西郷どんを屠った男』(徳間書店)
瀧井一博『大久保利通: 「知」を結ぶ指導者』(新潮選書)
勝田政治『大久保利通と東アジア 国家構想と外交戦略』(吉川弘文館)
清沢洌『外政家としての大久保利通』(中公文庫)
家近良樹『西郷隆盛 人を相手にせず、天を相手にせよ』(ミネルヴァ書房)
渋沢栄一、守屋淳『現代語訳論語と算盤』(ちくま新書)
安藤優一郎『島津久光の明治維新 西郷隆盛の“敵”であり続けた男の真実』(イースト・プレス)
佐々木克『大久保利通と明治維新』(吉川弘文館)
松尾正人『木戸孝允(幕末維新の個性 8)』(吉川弘文館)
瀧井一博『文明史のなかの明治憲法』(講談社選書メチエ)
鈴木鶴子『江藤新平と明治維新』(朝日新聞社)
大江志乃夫「大久保政権下の殖産興業政策成立の政治過程」(田村貞雄編『形成期の明治国家』吉川弘文館)
入交好脩『岩崎弥太郎』(吉川弘文館)
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