大泉洋退場から3カ月「鎌倉殿」一層盛り上がる訳 不安を乗り越え、三谷幸喜マジックが冴え渡る

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視聴者を魅了したのは、劇中で10人以上を無表情で殺して視聴者から「ヒットマン」「アサシン」と恐れられた善児が、最期は人の心が宿った様子を見せた結果、命を落としてしまったこと。対照的に、主君・義時は次々に謀殺の指令を出すなど、人の心を失ってゆくコントラストは強烈であり、それを架空の人物である善児を使って見せる脚本は圧巻でした。

これまで三谷さんは2004年の「新選組!」、2016年の「真田丸」では、戦いに敗れし者たちの大河ドラマを描いてきましたが、「鎌倉殿の13人」の北条義時は明らかに当時の勝者。「怖さがあるからこそ勝者になれた」という主人公らしからぬアプローチが、つねに予想の斜め上をゆく三谷さんらしさを感じさせます。

その“怖さがある勝者”は、頼朝もしかりであり、逆に謀殺された上総広常、源義経らは「純粋さを見せたことで命を奪われた」というコントラストもまた脚本の妙。史実を守りながら視聴者の予想をいい意味で裏切ることで、エンタメ性を高める仕事ぶりが伝わってきます。

最大の地獄絵図「親子の対立」へ

前回放送の第36回でも、畠山重忠(中川大志)、畠山重保(杉田雷麟)、稲毛重成(村上誠基)が相次いで理不尽な死に追い込まれる怖いシーンを連発。特に重忠は序盤から義時らとともに平家打倒を目指した人気キャラだっただけに、悲劇性のレベルをワンランク上げた感がありました。

しかし、25日放送の第37回では、悲劇性のレベルをさらに引き上げる物語が予告されています。予告映像には、「北条 骨肉の争い」「新鎌倉殿擁立」「危険な賭け」「あの頃には戻れない」の文字や、北条時政(坂東彌十郎)の「父親に向かってようそんなことが言えるな」、りく(宮沢りえ)の「実朝様を引きずり下ろし、平賀様を鎌倉殿に」というセリフがあったように北条親子の対立が激化。

これまで盟友を裏切るなどの衝撃的な展開が「地獄絵図」などと言われてきましたが、今回のいわゆる牧の方事件はそれを上回る悲劇になりそうです。このように怖さのレベルを立て続けに上げていけることこそが他の脚本家にはない“三谷マジック”なのかもしれません。

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