桑島:バーンズさんは日本のIBMで働いていたご経験もあり、企業が政府に働きかけをするときの、日米の違いをよくご存じです。米国では企業が自社に有利な政策を実行してくれるよう政府に働きかけることが当たり前に行われていて、これをパブリック・アフェアーズとかロビイングとか呼んでいます。
私は常々、日本企業も米国の企業のように、もっとグローバルに各国政府に働きかけて、自社の競争優位実現のために、自社に有利なルール作りを国内外でしていくべきだと思っています。日本ではいまだに官主導で産業政策を進める色合いが強いですが、特にITのような先端技術の分野では、民が先を行っている部分が多い。民間の声を生かして、新しい知識やトレンドを政策形成に反映することが、国際競争力を高めることにもなるはずです。
その点、米国政府は1990年代のクリントン政権時に、「ITに関する知識は民間のほうが進んでいる」と認めて、民間の声に耳を傾け、政策を作り込みました。それがIT革命が米国で花開くきっかけとなり、その後の米国の産業構造さえも変えてしまったと思います。
バーンズ:そのとおりです。クリントン政権はITビジネスがまったく未知の経済分野であり、政権側がIT産業に関して理解が深くないことを自覚していました。だから政府はわれわれをはじめとした業界の提言を積極的に取り入れた。それによって米国は、ITの分野で世界をリードすることができたのです。
桑島:その点、日本では通商産業省を中心に産業政策を策定し、経済を牽引していた時代から完全に抜け出していません。アベノミクスの根底にも、成長を実現するのは政府の役割だという暗黙の前提がある。しかし、すべて官に任せていればよかった古き良き時代は、もう復活しないでしょうね。
バーンズ:もはや政策が先端テクノロジーを擁するビジネスをリードできる時代は、とっくに終わっています。官主導でクリーンテックやクリーンエネルギー推進に力を入れましたが、現時点で大成功したとは言えないでしょう。
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