古本屋から総合リユース店へ
さて、こうしてブックオフは「意図のなさ」を持つに至った。そして、その「意図のなさ」は近年増大しているというのが筆者の考えだ。
そもそも、ブックオフが取り扱う商品は年々、多品種化している。
1994年には中古CDやビデオの扱いが始まり、2000年にはアパレルやスポーツ用品の買い取りも始まる。現在では、家電やブランド品を取り扱う店舗も多くあり、本のみならずさまざまな商品がブックオフには並べられている。
ブックオフは2016年に上場以来はじめての経営赤字となり、経営改革を迫られた。その際に行われた改革が、本以外の商品の拡充であった。
この経緯は東洋経済オンラインの記事「あの“ジリ貧"ブックオフが地味に復活したー2年間の売り場改革で脱「古本屋」の境地」に詳しいが、一部の店舗では大幅な改装が行われ、メイン商品が書籍ではない店舗も誕生したという。
例えば茅ヶ崎のブックオフでは、近隣住民の需要からサーフボードの取り扱いもされている。著者もさまざまなブックオフを訪れているが、近年は多くの店舗でプラモデルやトレーディングカードの取り扱いが非常に増えていることを実感している。
こうした流れは、経営改革上の取り組みとして、ブックオフが古本チェーンから総合リユース店へと変化したとまとめることができるだろう。
しかし、同時にそうした経営改革によってそれまでは主にさまざまな「本」が非意図的に並んでいた状態から、よりさまざまな商品が雑多に脈絡がなく並べられる状態が生まれたことを表していて、「意図のなさ」が増大していると見ることができる。
実際、サーフボードを見ていたつもりがいつの間にか本やCDの棚に迷い込んでいた、という経験をする店など、他にはあまりないであろう。2016年以降の経営改革によってブックオフははからずもこの「意図のなさ」を増大させることになったのである。
坂本がはからずも生み出した「意図のない」売り場は、その後も増大し続けた。
本連載でインタビューを行った三宅香帆氏もTelematic Visions氏も、そうしたジャンルを超えた雑多な商品が集まるブックオフの空間に影響を受けて創作活動を行っている。
こうした「意図のない」空間は、このような歴史で成立してきたのである。
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