「何年後どうなりたい?」が若手に刺さらない理由 部下を伸ばすリーダーは目標を強制しない

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「充実」や「幸福」を嫌がる人はいません。もちろん、ポジションが充実感をもたらす人もいれば、仕事内容自体や裁量、働き方などが大事だという人もいるでしょう。こうした話し合いは仕事をアサインする際の参考にもなります。経験のない難易度の高い業務の担当に指名されたとき、変化や挑戦を大事にしているメンバーは「成長のチャンスだ」と思うでしょうが、安定志向のメンバーは「プライベートに影響があるかもしれない」とやや腰が引けるかもしれません。これはどちらが正しいということではなく、受け止め方の違いであり、そのベースにあるのが各人の仕事に対する価値観です。それを本人と一緒に確認しておくと、チームの運営がスムーズに進むはずです。

経験学習サイクルで前進の手応えをつかむ

メンバーの自律的な成長を促すには、「経験学習サイクル」で手応えを掴んでもらうことも効果的です。

「経験学習サイクル」はExperienceBasedLearningSystems社の創立者兼会長でありケース・ウェスタン・リザーブ大学の名誉教授でもあるデービッド・コルブが提唱した「経験学習論」がベースになっています。

経験学習論では、「具体的な経験」「内省的な考察」「抽象的な概念化」「積極的な実践」の4つのステップからなるサイクルを考えます。

例えば、AとBという2人の新入社員が入ってきて、同じ配属先で同じような仕事をしている場合、1年後にAは驚くほど成長したのに対し、Bは入社時とほとんど変わらないままということが、ときとして起こります。能力や意欲など理由はいろいろ考えられますが、経験学習サイクルを回せたかどうかが差になっていることが多々あります。

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任された仕事について、何も考えずルーティンワークとしてこなすだけでは、能力もスキルも上がりません。一方、「なぜこの仕事があるのだろう」「他の部署とどういう関係があるのだろう」という問いかけや、行った結果に対して「あと1時間早く仕上げるために工夫できる点はないか」「お客様は良い反応だったけど、即決してもらうために工夫できる点はないか」などと内省的に考察し、そこから自分なりに仕事の意味や改善点を見つけられれば、仕事のパフォーマンスは間違いなく上がります。

経験学習サイクルの4つのステップのうち特に重要なのは「内省的な考察」と「抽象的な概念化」です。過去の見方ややり方に縛られているとせっかくの具体的な経験から「考察」や「概念化」といった新しい学びを引き出すことができません。

「考察」や「概念化」を行うときに、キャリアの方向感や価値観を意識してリーダーが問いかけると、メンバーは今の経験がめざす方向につながっている手応えを感じられて、仕事やキャリアに対して前向きになります。

リーダーはメンバーに対して適切なタイミングで適切な問いを投げることによって、経験学習サイクルがスムーズに回るように促してあげてください。

上林 周平 NEWONE代表取締役社長

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かんばやし しゅうへい / Shuhei Kanbayashi

大阪大学人間科学部卒業。アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)に入社。2002 年、株式会社シェイク入社。企業研修事業の立ち上げ、商品開発責任者としてプログラム開発に従事。新人から経営層までファシリテーターを実施。2015年、代表取締役に就任。2017年9月、これからの働き方をリードすることを目的に、エンゲージメント向上を支援する株式会社NEWONEを設立。米国CCE.Inc.認定キャリアカウンセラー。

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