日本のコロナ対策が迷走ばかりで的を射ない原因 感染症法にとらわれる非科学で非謙虚な政策の数々

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政府の役割は、コロナ研究をリードし、国民を統制することではなく、国民をサポートすることだ。そのためには、医療や検査を受ける権利、隔離される権利などを感染症法で保障するのがいい。現在の感染症法では、このような権利は明文化されておらず、多くの施策は政府の恩寵的財政措置にすぎない。検査キットなどが不足すると、厚労省は都道府県などに補助金を出すが、財源がなくなると同時に終了となる。

政府は、もっと国民の声に耳を傾けなければならない。流行当初、感染を恐れた世界中の人々は、「病院に行きたくない。他人と会いたくない」と望んだ。このとき、世界と日本の対応は違った。日本は医療機関に補助金を支払い、発熱外来を設置し、医療機関の受診を37.5度4日以上の発熱が続く人に限定した。厚労省や専門家は、「日本の医療を崩壊させないために必要な措置」と繰り返した。

一方、世界は自宅で検査、さらに医療が受けられるように工夫した。例えば、アメリカは、2020年3月に医療機関でのコロナ感染の拡大を防ぐため、すでに承認した心電図やパルスオキシメーター、電子聴診器などの非侵襲的な医療機器とそのソフトウェアを遠隔診療に用いることを緊急承認した。

自宅で利用できる検査は続々と開発され、昨年1月にアマゾンは、FDAが承認した検査キットの販売を始めている。このような検査結果を用いて、感染者は自宅にいながら、医師の遠隔診療を受けることができるようになった。

アメリカは国民のニーズに真面目に対応している

一方、遠隔診療に対する厚労省の対応は異様だった。検査の精度管理の難しさを強調し、抗原検査キットの販売に際して、薬剤師の対面での指導を義務づけた。ネットでの販売が解禁されたのは、今月になってからで、8月24日にロシュ・ダイアグノスティックスが販売する一般向けの抗原検査キットが承認された。アメリカからは周回遅れだ。

この遅れは、わが国にとって致命的だ。その影響はコロナに限らない。アメリカでは、コロナ流行をきっかけに遠隔医療が急速に発展した。

昨年11月、アメリカのジョンソン・エンド・ジョンソンは、糖尿病治療薬カナグリフロジンの第3相臨床試験を、被験者が医療機関に通院することなく、すべてバーチャルでやり遂げた。さらに、ユナイテッドヘルスケア社などが、遠隔診療に限定したプライマリケアを提供する保険の販売を開始した。この枠組みは、医師不足に悩む僻地医療問題の解決にも貢献するはずだ。

アメリカは、コロナ対応を通じて、リモート診療、そしてリモート勤務を支える社会システムを構築した。私は、このようなシステムが、ポスト・コロナのプラットフォームへと成長すると考えている。なぜ、彼らは、このようなシステムを生み出せるのか。それは国民のニーズに真面目に対応しているからだ。地道に試行錯誤を繰り返すアメリカの社会から、われわれはもっと学ばなければならない。

上 昌広 医療ガバナンス研究所理事長

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かみ まさひろ / Masahiro Kami

1993年東京大学医学部卒。1999年同大学院修了。医学博士。虎の門病院、国立がんセンターにて造血器悪性腫瘍の臨床および研究に従事。2005年より東京大学医科学研究所探索医療ヒューマンネットワークシステム(現・先端医療社会コミュニケーションシステム)を主宰し医療ガバナンスを研究。 2016年より特定非営利活動法人・医療ガバナンス研究所理事長。

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