日本のコロナ対策が迷走ばかりで的を射ない原因 感染症法にとらわれる非科学で非謙虚な政策の数々

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この間、科学的な議論は二の次だった。厚労省や国立感染症研究所が、今春まで、コロナの空気感染を認めなかったことなど、その典型だ。昨春には、権威あるイギリス『ランセット』誌やイギリスの医師会誌が、この問題を社説などで取り上げ、昨年8月にはアメリカ『サイエンス』誌が、「呼吸器ウイルス感染症の空気感染」という総説を掲載し、世界的コンセンサスとなった。日本の専門家が方針転換したのは、1年以上遅れたことになる。

もちろん、彼らが、このような論文を知らなかった訳ではないだろう。私は利権を守ろうとしたと考えている。もし、空気感染が感染拡大の主因であれば、全国の保健所をフル動員した積極的疫学調査による濃厚接触者探しは無意味だ。臨時国会で議論される感染症法改正では、積極的疫学調査の規模は大幅に縮小したほうがいいだろう。

日本型モデルなど不要

しかしながら、それは厚労省の担当部署、国立感染症研究所や保健所、そして地方衛生研究所の権限とポストの削減につながる。尾身茂コロナ対策分科会会長をはじめ、政府の専門家の多くは、このような組織の関係者だ。彼らにとっては有り難くない話なのだろう。

科学的なエビデンスに反してまでも、飛沫感染を重視し、飲食店などでの感染リスクをあおることは、国民にとっては迷惑以外の何物でもないが、彼らの利益を守るという点では合理的だった。今後も、同様の詭弁を弄し続けるだろう。今回の2類・5類論争が、まさにそうだ。

残念ながら、現在、コロナで世界をリードするのは圧倒的にアメリカだ。mRNAワクチンや治療薬を開発したのが、ファイザー、モデルナ、メルクなどのアメリカの製薬企業であるのは、その象徴だ。

安全保障を重視するイスラエルですら、ワクチンや治療薬を独自に開発していない。同国に、そんな実力がないことがわかっているからだ。国産ワクチンや治療薬にこだわり、巨額の血税を投入した政府のあり方は、空気感染を無視し続けた専門家と同じくらい罪深い。

コロナ対策は、世界の叡智が結集し、試行錯誤を繰り返す。その研究成果は、『ネイチャー』や『ランセット』などの英文の医学誌で発表される。われわれは、もっと世界から学ばなければならない。

「日本型モデル」などは不要だ。もし、画期的な研究成果なら、「日本型モデル」などと自画自賛しなくとも、一流の医学誌や科学誌が論文を掲載し、世界中が関心を抱くはずだ。現に、河岡義裕・東京大学医科学研究所特任教授らの研究が、『ネイチャー』や『ニューイングランド医学誌』などに掲載され、世界のコロナ対策に影響を与えている。

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