もちろん手がけたことすべて成功したわけではない。
「失敗したときは、もちろん落ち込みますよ、1日ぐらいは。長いときでも2日ぐらいでしょうね。だってほかにやりたいことができちゃうから」
失敗もたくさんあったが、楽しさや面白さありきで仕事を“やりきる”――それが大きな糧になってきたという。
だから社員に向け、「自分が楽しくなる仕事をしてほしい」と折に触れて伝えてきた。「かといって、自ら手を挙げて『やらせてほしい』という人が続々出てくるわけではないのですが、『やれる』チャンスは開かれていると認識していると思います」。
実は、「ザ・ノース・フェイス スフィア」を作るにあたり、店作りは思い切ってチームに任せたという。
「常務から、僕が店作りしているのが会社のリスクですと言われちゃって(笑)。若い人に任せたほうがいいと進言されたのです」(渡辺さん)
そうはいっても、細かいところまで気になって口を挟んだのでは?と聞いたところ、「時々相談に来てくれるので、意見は言うようにしました。ただ、ダメとは言わないことにしていて、こうしたほうがもっとよくなるのではと対案を出すことにしていました」(渡辺さん)。若い人の力を活かし、成長していってほしいという気持ちが見え隠れするコメントだ。
「ゴールドウイン」ブランドの再生が実は課題
ゴールドウインには、大きな課題もある。“ゴールドウインらしさ”の原点といえる「ゴールドウイン」ブランドの再生だ。
実は、ゴールドウインの売り上げの過半は「ザ・ノース・フェイス」ブランドが稼ぎ出しており、社名でもある「ゴールドウイン」ブランドの占める割合は大きくないのが実態だ。
「僕が社長になって、やらなければと思っている1つは、『ゴールドウイン』というブランドを一丁目一番地として組み立てていくことです」(渡辺さん)
それはどのようにして実現し、ザ・ノース・フェイスとどう棲み分けていくのか。
「アウトドアというものを本当に好きな人たちが、本当にいいものを自分たちで開発して、アウトドア好きに提供していこうというのが『ザ・ノース・フェイス』の精神なのです。それに対し、スポーツ総体を大きくとらえ、あらゆるスポーツというものの可能性を多くの人たちに伝えていこうというのが『ゴールドウイン』の精神だととらえています」(渡辺さん)
もともとスポーツの起源とは、余暇の時間を楽しむため、地球のさまざまな自然と遊ぶことにある。そこまで奥深いスポーツという領域を豊かに楽しんでもらうのが、「ゴールドウイン」が目指すところだという。
「ただ、ブランドを強くしていくための進め方は変わるところがありません。スポーツを本当に好きな人たちが、本当に良いものを開発し、好きな人に提供していく。そこを追求していくのが何よりの強みになると思うのです」(渡辺さん)
つまり、開発した製品そのものというより、それを使うことによって、どんな体験ができ、どんな楽しさや豊かさにつながっていくのか。そこまでを視野に入れた「ゴールドウインらしさ」を提案していくという。
そしてここでも“やりきる”ことを重視する姿勢が変わることはない。徹底的にこだわるのは、「デザイン」と「テクノロジー」だ。
「ゴールドウインには、極端に言えば、ザ・ノース・フェイスの先を行く先端テクノロジーを積極的に取り入れていきたいと考えています」(渡辺さん)
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