滋賀・呼吸器事件「冤罪」暴いた記者が問う"歪み" 7回の有罪判決も調査報道が明らかにした真実
司法判断に疑義を唱える報道は容易ではない
冤罪被害者となった西山美香さん(逮捕当時24)の実家は、滋賀県彦根市にある。中日新聞の編集委員だった秦 融氏が、大津支局の角雄記記者を伴って西山さん宅を訪ねたのは、2016年12月だった。
秦氏は当時、大型記者コラム「ニュースを問う」の担当デスク。秦氏は事前に、美香さんが獄中から出した家族宛ての手紙を角氏から示され、いくつか読んでいた。手紙は全部で350通あまり。封書1通につき便箋4~5枚、多いものは10枚もある。
その手紙も「私は殺ろしていない」と切々と訴える内容だった。「殺ろして」の「ろ」が字余りになっているのも美香さんの特徴で、その熱心さや整合性から秦氏は「確かに無実かもしれない」と考えるようになった。
ところが、事件では原審で3回(地裁・高裁・最高裁)も有罪判決が出ている。第1次再審請求審の3回、第2次再審請求審の1審も敗訴。つまり、計7回の裁判で有罪を宣告されていた。
本人がいくら無実を訴えているとはいえ、その司法判断に疑義を唱える報道は容易ではない。しかも満期出所まで1年を切っている。この段階で自分たちに何ができるのか。そんな迷いを抱えての訪問だった。
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