滋賀・呼吸器事件「冤罪」暴いた記者が問う"歪み" 7回の有罪判決も調査報道が明らかにした真実

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「自宅に足を運ぶと、美香さんの父・輝男さんが出迎えてくれました。顔にシワが深く刻まれていて……。娘の無実を信じて12年間戦ってきた苦悩が表れていると思いました。脳梗塞を患った母・令子さんは車椅子。2人とも70歳過ぎです。

輝男さんはこう言いました。私が中学しか出ていないからいいようにされてしまった、と。令子さんは、警察は市民の味方だと思っていたのに娘をめちゃくちゃにされた、と。切々と訴える夫妻は本当に善良な、日々の生活を懸命に送っている人たちでした」(秦氏、以下同)

呼吸器事件をめぐる経緯
フロントラインプレス作成

両親の話をじっくりと聞いた秦氏は冤罪だという確信をいっそう強めたが、確定判決が出た事件について、「冤罪だ」と新聞が報じるのは容易なことではない。

「紙面化のためには新証拠が必要でした。手紙の山だけでは足りません。捜査の問題点の検証、虚偽自白に至るメカニズムの解明……。美香さんは発達障害で、捜査員に迎合して自白した可能性が強いと取材で判断したのですが、その鑑定も必要でした。美香さんの障害をどこまで報道できるか。この点が一番大きかった」

事件報道における客観報道=捜査当局による認定

350通あまりの手紙が存在しているのなら、その内容をそのまま報道すればよいのではないかと考えがちだが、「報道のハードルはそんなに低くない」と秦氏は言い切る。

「報道には“客観報道”という柱があります。では、客観報道とは何か。実は、事件報道においては、客観報道とは捜査当局による認定を指していました。つまり、公的機関がある事案をどのように見ているか、それが客観性の証しだったわけです。

呼吸器事件でいうと、裁判所は7回も美香さんに対して有罪を言い渡していた。捜査機関と裁判所が、曲がりなりにも証拠に基づいて7回も判決を下しているわけです。無実を訴える手紙の束があったとしても、それらを無視して『無実を訴えている人がいる』と報道できるでしょうか」

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