「毎日疲れるのは資本主義のせい?」への本気回答 私たちの心の疲労についてヴェブレンに聞く

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質問者:ヴェブレン先生、でも、そもそも、本当に欲しいものなんてあるんでしょうか? それ自体フィクションかもしれませんよね。交換価値ばかりが駆けめぐるって、さも使用価値が本来大事で、それをみんな見失っているかのような説明ですが、その使用価値/交換価値という分け方自体、思い込みかもしれませんよね。

妄想の商戦の中で、どうすべきか

ヴェブレン:そうですね……、本当に欲しいもの……それも1つのフィクションだと、そう言われれば、それはそのとおりです。しかし、フィクション=物語によって事態を認識するのが人間なのですよ。ですから、その意味で私も、みなさんに理解してもらえる可能性の高い物語を語っているにすぎません。

そしてもう1つ、誤解されてはいけないのでこれも明言しておきますが、使用価値はすばらしい、交換価値はまやかしだ、前者を大事に、後者にだまされるな、そんなことを申し上げているわけではありませんよ。使用価値と交換価値、どちらも実は同じぐらい重要だと思っています。

ひとまず、交換価値ばかりに注目が集まり、空転しがちに見える経済を少し落ち着いて考えてもらうために、あえて使用価値推しの表現をしてみただけですよ。

この2つの価値のモデルがどんな役回りを演じて、どんな関係性を持てば、社会のバランスある発展が保たれるかを考えることは、実は古くて新しい重要な問題をはらんでいるのですね。

その意味では『有閑階級の理論』以上に、その後著した『企業の理論』も読んでいただきたいところですが、そこでは、ブランドにも通じるような言わば“のれん”という、“無形資産”が企業活動のカギを握ることを示しています。

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まあ、要は、人も企業も“経済合理性”などではなく、他者のまなざし、他者の価値観が交錯する中で、どんどん想像力の……、もっと言うなら妄想の領域に入っていくものなのですね。そういう空中戦の領域がいよいよ拡大する中、ついにはメタバースなどと言い始めているでしょう? 

妄想の商戦の中で、人の心はどうなっていくのか? みなさんの時代は、とても大変な時代ですね。慰めにもなりませんけれども、メタバースもいいですが、それよりメタレベルで思考すること、自分がどんな構造の中にあって、今、どんな価値判断で目の前の選択をしているのかをいつも重層的に考えることの大事さを知っていてほしいですね。

丸山 俊一 NHKエンタープライズ エグゼクティブ・プロデューサー/立教大学特任教授/東京藝術大学客員教授

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まるやま しゅんいち / Shunichi Maruyama

1962年長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業後、NHK入局。「欲望の資本主義」「世界サブカルチャー史 欲望の系譜」「欲望の時代の哲学」などの「欲望」シリーズのほか、「ネコメンタリー 猫も、杓子も。」「地球タクシー」などをプロデュース。過去に「英語でしゃべらナイト」「爆笑問題のニッポンの教養」「ソクラテスの人事」「仕事ハッケン伝」「ニッポン戦後サブカルチャー史」「ニッポンのジレンマ」「人間ってナンだ?超AI入門」ほか数多くの異色教養エンターテインメント、ドキュメントを企画開発。著書に『14歳からの資本主義』『14歳からの個人主義』『働く悩みは「経済学」で答えが見つかる』『結論は出さなくていい』など。

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