「移民獲得競争」に背を向ける日本はスルーされる 移民拒否ならそこそこ豊かな生活の保証もない

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「日本人だけでそこそこ豊かな暮らし」というのは、過去の蓄積がある現在は何とか維持できているだけで、今後そんなに長続きしないと覚悟するべきです。このように、日本人が豊かに暮らすためにも、最低限の暮らしを維持するためにも、移民の受け入れは必須なのです。

もちろん、移民の受け入れには、さまざまなデメリットがあります。文化や風習の違いによって、日本人との摩擦・軋轢が生じます。治安の悪化や犯罪の増加が懸念されます。社会保障などのコストも上がるでしょう。

ただ、デメリットがあるからといって、移民の受け入れを拒否するという選択肢はありえません。いかにデメリットを抑え、移民と日本人が融合する新しい社会を作るか、知恵を絞る必要があります。

どちらがマシかという選択

ところで、移民の問題が難しいのは、「どちらがマシか」という選択だからです。人がもっとも嫌がるタイプの意思決定です。

移民を受け入れれば、日本人との摩擦・軋轢や治安の悪化といったデメリットがあります。一方、受け入れを拒否すれば、最低限の暮らしすら維持できなくなります。どちらを選択しても将来、確実に今より悪い状態になります。

人は、「どちらが良いか」という選択、たとえば「今度の週末、銀座でショッピングしようか、それともディズニーランドに行こうか」は、ウキウキと、しかも冷静に意思決定することができます。しかし、「どちらがマシか」という選択は、そもそも意思決定する気になれません。

上り坂の社会では、「どちらが良いか」という意思決定が主流ですが、今日の日本のような下り坂の社会では、どうしても「どちらがマシか」という意思決定が多くなります。消費税の増税などもこのタイプです。

ただ、気乗りしないからといって、「どちらがマシか」という意思決定を回避するわけにはいきません。国民が気乗りしないなら、政治のリーダーが責任をもって意思決定するべきです。7月の参院選に勝って盤石の政権基盤を整えた岸田首相には、「どちらがマシか」という困難な意思決定に大胆に踏み込んでいくことを期待しましょう。

日沖 健 経営コンサルタント

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ひおき たけし / Takeshi Hioki

日沖コンサルティング事務所代表。1965年、愛知県生まれ。慶應義塾大学商学部卒業。日本石油(現・ENEOS)で社長室、財務部、シンガポール現地法人、IR室などに勤務し、2002年より現職。著書に『変革するマネジメント』(千倉書房)、『歴史でわかる!リーダーの器』(産業能率大学出版部)など多数。

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