研究者・棋士・エンジニアの顔を持つ28歳の生き方 「それぞれ全力を注げるからバランスがとれる」
ただ悩ましいのが、もし今後ものすごく強い将棋AIを作り上げたとき、公開すると他のプロ棋士にも使われてしまうこと。それって競合他社に情報を渡すようなものなので、悩ましいですよね(笑)」
大学で研究しているAIも、将来的に将棋につながる可能性がある。
「今は自動運転が研究テーマですが、今後テーマをガラッと変えて、将棋AIで論文を書くのもいいなと思っています。将棋AIの開発で何か発見があれば、大学の研究論文に生かせますし、すべてがつながれば相乗効果も高まるはずですから」
プロフェッショナルは「対価に見合う仕事」をする
三つの道、それぞれを極める谷合さんは「プロの仕事とはどうあるべきか」について持論がある。
「まずプロ棋士としては、『棋譜を売る』のが一番の仕事だと考えています。もちろん勝つことが一番大事ですが、見る人が面白いと思ってくれなければ成り立たない職業ですから。
実は最近、将棋AIの影響もあって、AIが悪手とみなす指し方をしない棋士が増え、戦法の幅が狭まっている面もあります。でも将棋AIの指し方って、『またこれか』と思うことも多いんですよね。
それを否定するわけではないのですが、私自身はどれだけ自分らしい面白い将棋を指せるかを大事にしています」
谷合さん自身は、AIが得意としない「振り飛車」という戦法を好んで指す。その中でもさらに独自の工夫を凝らしており、「名前を隠しても谷合さんの将棋だと分かる」とよく言われるという。
「エンジニアとしても、お金をもらっている限り重要視すべきは『対価に見合う成果』を出すことです。スタートアップで働いていた時は、他社のエンジニアより良いものを作らなければ、という意識は常にありました。
今取り組んでいる将棋AIの開発はまだ仕事にはなっていないので、プロ意識とは少し違うかもしれません。ただ、将棋AIの開発で得られた知見は、そのままプロ棋士の仕事に応用できますし、プロ棋士の立場からもコンピュータ将棋界を盛り上げていきたいという思いは強いです」