クルーグマン教授、「緊縮財政」をメッタ斬り ドイツの倹約主婦のようになるのは間違いだ
負債比率が低下していないのは、努力が足りないからだと考える人もいるだろう。つまり、個人も政府も真面目に財布のひもを締めようとしておらず、したがって世界にはもっと「緊縮政策」が必要だという意見である。
豊かな国もおカネを節約
だが、実際のところ、緊縮政策は前代未聞のレベルで進められている。IMF(国際通貨基金)が指摘したように、利払いを除いた実質政府支出は富裕国全体で減少している。なかでも、多額の債務が問題となっている南欧の国々で大きく削減されている。しかし、ほかの国々でも削減は行われており、ドイツや米国など、史上最低水準の金利で借り入れができる国でも支出は減っているのである。
しかし、この緊縮政策は問題を悪化させただけだ。そして、それは予想されたことだった。なぜなら、誰もが財布のひもを締めるべきだという要請は、経済において負債が果たす役割が誤解されたために行われていたからだ。
負債についての誤解があることは、「子供たちにつけを回すな」などのスローガンとともに批判が行われるときに示される。こうした言い分は一見正しいように思われる。しかし、次の点について考えてみよう。負債を膨らませた世帯はそれにより貧しくなる。では、この状況を国の負債全般に例えられるだろうか。
そうはできない。負債を抱えた世帯は、他人からおカネを借りている。一方で世界各国は自国から借りている。他の国々からおカネを借りることも可能ではあるが、米国の他国からの借入額は、2008年以降はそれ以前よりも減少している。また、欧州は他地域からの借入額よりも、他地域への融資額のほうが多い。
負債が自国からの借入だとすると、それにより経済が貧しくなることはない(また、それを返済しても経済が豊かになることはない)。たしかに、負債は経済面での安定性を損なう可能性がある。しかし、負債を減らしたとしても、その結果デフレや経済不振が生じたら、状況は改善したとは言えない。