クルーグマン教授、「緊縮財政」をメッタ斬り ドイツの倹約主婦のようになるのは間違いだ

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ここから考えが及ぶのは最近の出来事だ。欧州における負債削減策と政治危機とは、直接的に結びついている。

欧州の指導者たちは、経済危機は分不相応に暮らす国がおカネを使い過ぎたために起こったと完全に信じている。ドイツのメルケル首相は、質素な生活に戻ることが打開策であると主張した。同首相は、倹約家として有名な「シュヴァーベン地方の主婦」を、欧州は見習うべきだと言い切る。

だが、それでは緩やかに大惨事に向かおうとしているようなものだ。負債を抱える欧州の国々はたしかに財布のひもを締める必要があった。しかし、彼らが強いられた緊縮政策は信じ難いほど厳しいものだった。

一方で、ドイツなどの主要国は、緊縮政策をとっている国々の削減分を埋め合わせるために支出を増やす必要があったのに、やはり支出を減らそうとした。その結果として生じたのは、負債比率の低下は起こり得ない環境だ。つまり、実質成長率は鈍り、インフレ率はゼロに近いものとなり、最も状況の悪い国ではデフレが根を下ろしつつある。

ギリシャの離脱はユーロに打撃

この悲惨な政策に、市民は驚くほど長い間、耐えてきた。犠牲はやがて報われるとの、エリート層の言葉を信じてきたからだ。しかし、痛みはいつまでも続き、何も目に見える成果はなかった。だから、急進化は避けられなかった。もし、ギリシャの総選挙における急進左派の勝利や、スペインでの反体制派の台頭に驚いた人がいるならば、その人は十分に状況を見ていなかったということだ。

ギリシャは50%以上の確率でユーロから離脱すると予想する向きもあるが、次に何が起こるのかは誰にもわからない。ギリシャの離脱によりユーロへのダメージは及ばなくなるという考え方もある。だが、私はそうは思わない。ギリシャのユーロ離脱はユーロという通貨プロジェクト全体を危険にさらす可能性が非常に高い。そして、本当にユーロがダメになったら、その墓碑にはこう記されるべきだ。「(国の負債を個人の負債になぞらえるという)ひどいたとえによって死去」と。

=敬称略=

 (執筆:Paul Krugmanプリンストン大学教授、ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス教授、翻訳:東方雅美)

(c) 2015 New York Times News Service

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