旅先で「1万円貸して」から結婚に至った2人の顛末 トラブルから2年後、思わぬ展開に…

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達夫さんにはずっと結婚願望があった。祖母の勧めで地元の同い年女性とデートしたこともあったが「脈なし」だったと振り返る。留美さんと事実婚をして子どもを作ろうと考えた矢先、運転手の仕事で大ケガを負ってしまう。

絶対に入籍しないと思ったはずなのに…

その後の行き当たりばったりな展開はこの2人らしい。自由な旅仲間の1人であるカナダ人のダニエルさん(仮名)と2人そろって意気投合し、留美さんは「東京で一緒に住まないか?」と誘われたという。

「ダニエルが私を好きだったのかって? うーん、どうでしょう。もっとカジュアルな感覚だと思います。たまたまタイミングが悪くて東京に行きませんでしたけど、今から考えると行っておけばよかったですね~」

ひたすら軽い調子で話しまくる留美さん。深く考えているのかいないのかわかりにくい人物だ。一方の達夫さんはダニエルさんに心を許し、「ダニエルの子ならば育てたい」と思っていたと明かす。謎の三角関係である。

「僕はもともと酪農家だったので牛の子を何頭もとり出して育ててきました。だから、誰の子でも抵抗なく育てることができます」

そういう問題ではないと思うのだが、達夫さんは真剣な表情なので放っておこう。実際、子どものいない夫婦である2人はいま住んでいる町の子どもたちとも親しく関わりながら暮らしているようだ。

「今年に入って、50代と60代の友人カップルが急に入籍をしたんです。それを見て、私たちは絶対に入籍しないと思いましたね。でも、メガネを買いに行った先ですてきなゴミ箱を5つ買って、なんだか安心したんです。無性に指輪が欲しくなりました」

相変わらず先の読めない話を勢いよく話す留美さん。ゴミ箱は生活に密着した用品だ。自分たちにしっくりくるものを見つけるためには、8年間の共同生活が必要だったのかもしれない。かつて家出少女だった留美さんはようやく安住の地を見つけたのだ。

ずっと結婚したかった達夫さんは珍しく機敏に動いた。ペアリングを手作りできるお店を探し、その店の近くの神社で参拝客をつかまえて祝言を上げてもらい、留美さんの父親と取引先の社長に婚姻届の証人になってもらった。途中、留美さんは「やはり婚姻届を出すのはやめられないか」などとジタバタしたらしい。あれこれと余計なこともしながら、自分なりの道を見つけていくタイプなのだろう。

婚姻届を出したからといっても関係性は何も変わらない、私は自由なままだ、と留美さんは強調する。その隣では達夫さんが何も言わずにニコニコしている。かなり個性的な2人だが、そろっていると不思議な安らぎを周囲に与えると思う。偶然と直感に従っても、人は楽しく生きていけるのかもしれない。

大宮 冬洋 ライター

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おおみや とうよう / Toyo Omiya

1976年埼玉県生まれ。一橋大学法学部卒業後、ファーストリテイリングに入社するがわずか1年で退社。編集プロダクション勤務を経て、2002年よりフリーライター。著書に『30代未婚男』(共著、NHK出版)、『バブルの遺言』(廣済堂出版)、『あした会社がなくなっても生きていく12の知恵』『私たち「ユニクロ154番店」で働いていました。』(ともに、ぱる出版)、『人は死ぬまで結婚できる 晩婚時代の幸せのつかみ方』 (講談社+α新書)など。

読者の方々との交流イベント「スナック大宮」を東京や愛知で毎月開催。http://omiyatoyo.com/

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