桑島:なるほど。それはわかるような気がします。ところで話は変わりますが、前回、日本は価格の安さ以外の“非価格競争力”で競争していくべきだという話になりました。
その一例として、日本企業は、実はCSR(企業の社会的責任)というコンセプトで呼ばれる要素を自然に実行に移してきている部分も多いので、それが社会問題解決能力につながり、ひいては非価格競争力につながるというお話でしたが、やはり国際的に、CSRについての考え方が変わってきているのですか?
CSRをめぐるトレンドの変化
田村:私が見るところ、CSRという概念は、この10年、15年の間にかなり変遷を遂げて発展をしてきました。なお、CSRという言葉は、日本でも知られてはいますけれど、どこかしら受け身のニュアンスがつきまとっていて、企業のメインストリームのビジネスモデルの一部という扱いは受けてこなかったという印象を持っています。企業の組織に即して申し上げれば、CSR部門の関心事ではあるが、経営企画部門の関心事ではない、という位置づけではなかったかと思います。
おそらくこれまでの企業は、自分の作っている品物やサービスのサプライチェーンの上流のほうまで全部さかのぼって、環境破壊の工程はないか、児童労働や強制労働をしていないか、安全基準をきちんと守っているか、そういうコンプライアンスがどこまで守られているかについて、自分たちが直接かかわっているところ以外は、なかなか自分たちの責任として対応してこなかった。ましてや、それらに対する対応力が自社のブランドになるという認識も、一部の例外を除いて、あまり主流ではなかったのでないかと思います。
しかし最近のCSRをめぐる世界の風潮は変わってきているように思います。やはりバイイングパワー(購買力)を持つことに伴う責任、サプライチェーンの川上から川下全体に対する企業の責任がかなり認知されてきた。これはここ10年ぐらいのCSRをめぐるトレンドの変化です。
ひとつの象徴として、2008年と2011年に国連で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」(通称「ラギーフレームワーク」)という文書を挙げることができます。
その中では、企業の責任を明確に書いていて、サプライチェーンによる企業活動の結果、社会にもたらす負の影響に対して、企業にはそれを改善、緩和する責任があるということを、国連の全会一致でうたっている。これがCSRのひとつの分水嶺と言われています。
もちろん、欧米企業の中でも、CSRがビジネスモデルそのものの一部にまで昇華しているかどうかは、企業の間でも濃淡はあります。しかし名だたる欧米の大企業は、すでに皆さんそうとうにギアチェンジをしていて、「それが企業の責任ならば、それはそれでビジネスにしていくほうが得策だ」というふうに覚悟を決めた。企業の責任になってしまったのだから、もうこれはビジネスの一部にしないと損だというふうに、かなり変わってきているように思います。
ですから、日本も遅まきながら、そのトレンドにまずは乗るべく、そういう国連などでの議論や欧米企業の動向を国内に紹介することは有益だと思っています。
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