土井善晴「料理に失敗なんて、ない」断言する真意 「一汁一菜」にこめた、料理するあなたへのエール
――私たちが一汁一菜を始めてみたいと思ったときに、まず必要なものは何でしょうか。
味噌と鍋があったらそれでよろしい。ご飯は炊飯器で、炊飯器なくても土鍋でも何でも、あとはおたまとお椀とお茶碗があったらいいです。
お味噌は、昔ながらの伝統的な製法で作られたものを選ぶことですね。お椀1つ分の具材とお水を鍋に入れて、中火で煮たてて、味噌をとく。だしは別に取る必要はありません。すべての具材を水で煮れば、具材の水溶液が出て、それがだしになります。どんな忙しい人でも、ご飯を炊いて、味噌汁と漬物さえあったらそれで食事になるわけです。家に帰れば、5分で温かい味噌汁がいただけます。
具は何でもいいんですよ。お豆腐とか和布(わかめ)はもちろん、トマトとかキャベツみたいな冷蔵庫にある野菜、卵、ツナ缶、昨日の残りのから揚げだっていい。味噌汁に入れたくないものはあっても、入れていけないものなんてありません。
味噌汁に入れたことがない食材も使ってみればいい。やったことのないことでも、なんでもやってみたらいいのです。初めてインゲン豆を茹でて、それで「ああ、硬かったなあ」ってなったら次はもう少し長く茹でてみればいいんです。毎日味噌汁を作る中に、どれだけの経験ができるか。料理することで無限の経験ができます。それで秩序を知ることができます。
いま、経験のないことをやってみるということがなかなかできなくなっていますけど、やってみたらええんですよ。インゲン豆を茹でてみるといった本当に小さなことでも、自分で発見することが大事です。ちょっと硬かったなって思ったら口から出せばいい。それを失敗とは言わないんです。
――著書の中に「料理に失敗なんて、ない」と書かれているのが印象的でした。
みんな、料理の見た目がきれいであることを重視しすぎているんです。飲食店でプロが作るような料理やハレの日の料理が、毎日の生活の料理の基準になってしまっています。生活の料理と飲食店の料理は違います。飲食店のようなきれいな料理だけを食べるのだけが生活ではないでしょ? 豆だって芋だって、本当は煮崩れているぐらいのほうがおいしいんですよ。
日本の食文化を前に進めた『きょうの料理』
――土井さんが生まれたのがちょうどNHK『きょうの料理』のスタートと同じ1957年で、父・勝さんが講師だった番組に、後年土井さん自身も出演されるようになりました。長年出演されていた土井さんから見て、『きょうの料理』が料理の世界に与えた最も大きな影響は何でしたか。
放送が始まった1957年当初はまだ、栄養不足が課題とされている時代でした。『きょうの料理』は、それから続く高度経済成長、安定成長、そして、低成長時代、現代と、時代とともにあってその変化を見てきた。その時ごとに、社会が要求するようなものをすくい取って発信し続けてきたんです。
日本は一汁三菜を、国民の栄養改善のために、栄養学の観点で指導し、奨励しました。一汁三菜は主菜(メインディッシュ)を中心に考える献立の立て方です。和食には、メインディッシュ(タンパク質や脂肪)にするような肉料理はありませんから、中華や洋食に求めたんです。それを『きょうの料理』で教えてくれたのです。
それまで、料理人の世界でも料理は教わるものではありませんでした。それを、日本を代表するような超一流の講師が丁寧にレシピをコツを含めて教えたのが『きょうの料理』です。『きょうの料理』のおかげで、日本の料理文化はぐっと一歩踏み出したと言えると思います。
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