土井善晴「料理に失敗なんて、ない」断言する真意 「一汁一菜」にこめた、料理するあなたへのエール

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――土井さんの「一汁一菜でよい」というメッセージに救われた、という声を多く聞きました。もともとは、戦後、食事の基本とされてきた一汁三菜(汁物と三菜、多くは主菜1品と副菜2品で構成する)という考え方から生まれた言葉ですね。

一汁三菜というのは、肉と野菜のように、主菜と副菜でタンパク質とビタミンなどを別々に摂る考え方です。栄養をバランスよく摂るという考え方が生まれたときに、日本料理にメインディッシュを入れるようになったのです。日本料理が栄養学の理想を満たそうと思うと、肉とか魚とか、主菜が足りないんですよ。肉料理はそれまで日本料理になかったから、カツやフライを家庭料理にとりこもうとしたんです。

 土井善晴(どい・よしはる)/1957(昭和32)年、大阪生まれ。芦屋大学教育学部卒。スイス、フランス、大阪で料理を修業し、土井勝料理学校講師を経て1992(平成4)年、「おいしいもの研究所」を設立。十文字学園女子大学特別招聘教授、甲子園大学客員教授、東京大学先端科学技術研究センター客員研究員などを務め、『きょうの料理』(NHK)などに出演する。著書に『一汁一菜でよいという提案』、『料理と利他』(共著)、『くらしのための料理学』など多数(撮影:梅谷秀司)

当時、家庭で料理を作るお母さんたちは、『ザ・ルーシー・ショー』や『奥さまは魔女』などのアメリカのテレビ番組にあこがれました。大きな冷蔵庫があって、豪華な料理を作ってお客さんをもてなすというライフスタイルです。

父の料理学校でも、ムニエルとかグラタンとか、いわゆるメインディッシュ的なもの、レストランのメニューに一品料理として並んでいるようなものを教え始めました。そういう時代背景とともに『きょうの料理』もあったんです。

一汁三菜の“呪縛”を解く

――土井さんが家庭料理に目を向けられるようになったのは、何がきっかけですか。

それまで日本料理店で、料理人として日本一と言えるような仕事をしてきたという自負があった私が、父の料理学校で家庭料理研究に身を置くことを余儀なくされたときに「なんで私が家庭料理やねん」と思いました。ところが、家庭料理には自分の知らないことだらけだった。プロの料理にない、私の知らないことをたくさん見出すことになったんです。

きれいに切りそろえるものだけがいい仕事ではなく、均一でない不揃いなもののおいしさがあります。山で掘りたての山ウドや旬の野菜のおいしさ、はしりものを尊ぶ料理店のおいしさとは別物です。

普通の”お母さん”が作るなんでもない料理のおいしさに驚きました。難しいことを簡単にやっているのです。その難しさを料理店の経験で知っていましたからね。料理店での修業をやめてから、それまで知らなかったことに気づき、知ることになりました。

家庭料理が自分の一生の仕事になり得るかと考えているところでしたから、河井寛次郎記念館での民藝との出会いは大きかったです。本に詳しく書きましたが、家庭料理は民藝だとわかりました。自然と繋がる家庭料理の美しさが民藝につながると気づいたことは、私にとって大発見でした。

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