「最期にビール飲みたい」願い叶えた看護師の想い 終末期患者に寄り添う彼が考える「幸せな最期」
同社に舞い込む依頼は多岐にわたる。例えば、「子どもや孫の結婚式に参列したい」「家族で思い出の温泉旅行に行きたい」といったイベント事から、「病院から自宅に一時帰宅したい」「生まれ育った地元の家に帰りたい」などの移動の付き添いまで、さまざまな願いの実現をサポートしてきた。
依頼者の中には、余命残りわずかの終末期患者も少なくない。時にその依頼が、患者にとって「人生最期の願い」となることもある。だからこそ、「ご本人やご家族が思い残すことがないように、最大限やりたいことをやり切るためのサポートをしたい」と語る。
かなえるナースの同行によって、「余命わずかの父と一緒にバージンロードを歩きたい」という娘さんの願いを叶えたことも。
父は末期がんで体力的にも厳しい状態だったが、看護師のサポートを受けて、無事に結婚式に参列することができた。
救命救急の現場で感じた延命治療への疑問
前田さんがこの事業を立ち上げたのは、救命救急や在宅の看護師として、多くの人の「死」や「看取り」に直面した経験が大きく影響している。
大学で看護学を学んだ後、静岡県の総合病院に就職した前田さん。最初に配属されたのは、救急科の集中治療室(ICU)だった。
「救急科には次々と患者さんが運ばれてきますが、その多くが生死にかかわる危険な状態の方でした。治療によって無事に回復する患者さんもいましたが、運ばれてきた時点ですでに心肺停止に近い状態で、手の施しようがない方もたくさんいました」
前田さんは日々、救命救急の現場を経験していく中で、ある葛藤を抱えるようになる。それは、今後回復の見込みがない患者に対しても、心臓マッサージで蘇生し、人工呼吸器を装着するなどの延命治療が行われていくことだった。
その現場は、「命が助かってよかった」と簡単に言い切れないほど、壮絶なものだったと明かす。
例えば、心肺停止に陥り、心臓マッサージを行うことになった場合、胸骨を力強く圧迫するため、骨がバキバキと音を立てて折れる。その折れた骨が肺に刺さり、出血することがたびたびあったという。
「この時点ではすでに患者さんの自発呼吸も弱まっているので、人工呼吸器の管を付けるのですが、その際に吐血のように血が噴き出してくるんですね。しかも患者さんはショック状態に陥っていて、血が止まりにくくなっている。とめどなく流れる血液を吸引したり、拭き取ったりする処置をし続ける必要がありました」
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