「最期にビール飲みたい」願い叶えた看護師の想い 終末期患者に寄り添う彼が考える「幸せな最期」

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血圧も大きく下がっているため、点滴を大量に投与して血圧を上昇させる。すると、全身がむくみ出し、誰だか見分けがつかなくなるほど顔が膨れ上がってしまう。さらにまぶたも閉じなくなり、眼が開いたままになることも……。乾燥を防ぐために、眼の表面に保湿剤のワセリンを塗り、ラップフィルムをかぶせる処置を行うというのだ。

「痛々しくて目を覆いたくなる気持ちになることもありましたね。最もつらかったのは、変わり果てたご本人の姿を見たご家族がショックのあまり、延命治療を選択して本当によかったのかと、後悔の念にさいなまれることでした」

自分の望む最期を自分で選び取れるようにしたい

日本では、尊厳死にまつわる法律がまだ整備されておらず、もし延命治療を中止した場合、医師が刑事責任を問われる危険性が少なからずある。人工呼吸器を一度装着したら、自発呼吸が見られるなど回復の兆候が見えない限り、外せない可能性が高いのだ。そのため、意識がないまま何年も延命され続けるケースが後を絶たない。

「その間、ご家族は入院先に通い続けることになります。先の見えない状況に疲れ果てたご家族が、『先生、父(母)はいつぐらいに死にますかね?』と医師に確認している姿を同僚が見かけたこともありました」

なぜ、救命救急の現場でこのような延命治療が行われていくのか?

本人の意識がない場合、家族が延命治療を行うかどうかの意思決定を行う。だが、多くの家族は本人の意思を把握していないので、判断に迷ってしまうのだ。

さらに、突然の出来事で気が動転し、ますます冷静な判断ができなくなっている。そうした状況下で、「どうにか本人の命を助けてほしい」と、救命措置や延命治療に同意してしまうケースが多いのだという。

「この『命を助ける』という認識が、ご家族と医療従事者の間で乖離がある」と前田さん。救急の現場での「助ける」は、あくまで“救命”することであって、以前の状態にまで回復させることとは限らない。たとえ一命を取り留めても意識不明のままであったり、重篤な後遺症が残ったりする可能性もあるのだ。

「こうしたリスクについて、ご家族に十分に伝わっていないのではと感じましたし、そもそも患者さん自身が救命措置や延命治療を本当に望んでいるのだろうかと、疑問を抱くようになりました」

そのときに前田さんが強く実感したのは、「患者さんが自分の望む最期を自分で選び取れるようにしたい」という思い。本人がどういう最期を望んでいるのか? 救急搬送される前の自宅にいる時点で一緒に考え、その人らしい選択ができるように支えたいと思い、訪問看護師になることを決意したという。

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