「最期にビール飲みたい」願い叶えた看護師の想い 終末期患者に寄り添う彼が考える「幸せな最期」

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住み慣れたわが家で最期まで暮らせるなら、それは幸せなことなのかもしれない。ただ、「自宅で過ごすことが最善とも言い切れない」と前田さん。

「在宅の場合、急変した際に即座に対処するのが難しい面もありますし、日々介護をするご家族にも多大な負担がかかります。病院で過ごしたほうが、患者さんもご家族も安心できるという方もいらっしゃいます。やはり、ご自身がどこでどのように最期を迎えたいのか、ご家族や身近な人たちとすり合わせておくことが大切だと感じましたね」

前田さんが考える「幸せな最期とは何か」

「訪問看護の仕事にとてもやりがいを感じていた」という前田さんだが、一方で限界を感じる場面もあったという。

担当する患者の中に末期がんを患っている人がいて、自宅を訪問する度に「もう一度、箱根に行きたい」と口にしていた。だが、介護保険や公的医療保険内での訪問看護では、時間や場所に制限があり、外出の同行ができなかったのだ。

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「結局、その患者さんは容態が急変してしまい、旅に行けないまま亡くなってしまいました。悔しかったですね……。患者さんの望みをかなえてあげたくても、制度上、できない部分がある。そのときの悔しさやもどかしさが、かなえるナースを立ち上げるきっかけになりました」

これまで多くの終末期患者の思いに寄り添ってきた前田さんに、「幸せな最期とは何か」について聞いてみると……。

「やはり、『自分がどこでどう過ごしたいかを自分の意思で選び、最期まで思う存分生き切ること』ができたら、幸せと言えるのではないでしょうか。たとえ寿命が縮まったとしても、自分の望むように人生を生き切った患者さんは、穏やかな表情で亡くなられています。その姿は美しいとさえ感じるほどでした」

続く第2回の記事では、「かなえるナース」を通じて、人生最期の願いをかなえた終末期患者とその家族の実例を紹介する。

伯耆原 良子 ライター、コラムニスト

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ほうきばら りょうこ / Ryoko Hokibara

早稲田大学第一文学部卒業。人材ビジネス業界で企画営業を経験した後、日経ホーム出版社(現・日経BP社)に。就職・キャリア系情報誌の編集記者として雑誌作りに携わり、2001年に独立。企業のトップやビジネスパーソン、芸能人、アスリートなど2000人以上の「仕事観・人生哲学」をインタビュー。働く人の悩みに寄り添いたいと産業カウンセラーやコーチングの資格も取得。両親の介護を終えた2019年より、東京・熱海で二拠点生活を開始。Twitterアカウントは@ryoko_monokaki

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