男性育休「丸2年取った人」が得た新しい人生観 キャリアや収入源の不安とどう向き合ったのか

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その後、里子さんは帝王切開での出産となり、産後1〜2カ月は思うように動けなかった。もしも夫が育休をとらず、1人で赤ちゃんの世話をし、買い物に行き、料理や洗濯をこなさなければならなかったとしたら――想像するだけで青ざめると里子さんは振り返る。

「あの状態で、1人きりでの子育てなんて無理でした。身体が痛くて、思うように動けなくて。それでも精神的に落ちついていたのは、家の中に大人が2人いたから。育児家事を分担し、なにより苦労を共有できた。2人で子育てをしているっていう実感が、すごくありました。助けを求めなくても、指示を出さなくても、動ける大人が2人いるというのは、心強いですよ」

第二子の子育てに生きた育休経験

鈴木さんは育休復帰後、海外拠点に駐在勤務となり、里子さんは海外で第二子を出産する。出向企業では男性の育児休暇が数日しかなく、長期の育休は取れなかった。しかし里子さんは、第一子の育休経験が、第二子の子育てに生きたと感じている。

「子育てって、体験してみないと何が大変なのかわからないと思っていて。私自身も、大人2人で子ども1人を育てるなら“余裕でしょ?”と今は思うのですが、当時はミルクをあげたり、おむつを替えたり、病院に連れて行ったり、自分の時間をまったく取れないくらい大変だと感じていた。その苦労を一緒に体験して、夫も大変さをわかってくれているというのがすごく大きいんです」

海外で第二子を出産するにあたって、鈴木夫妻は現地のヘルパーを雇った。「夫が、1人じゃ無理だから『ヘルパーさんを頼もう』と言ってくれました。ヘルパー代って、すごく高いんです。子育ての大変さがわかっていない人だったら、“家にいるんだから見れるでしょ?”となっていたかもしれない。『ヘルパーを雇おう』と言ってくれたのは、あの大変な時期を一緒に過ごしたからこそだと思います」

加藤さんも鈴木夫妻も、男性の育休を、長い人生の中で少し立ち止まり、家族との関係やこれからの生活、キャリアを見つめなおせるいい機会だったと捉えている。「もしも再び、育休の機会があったら?」の質問には、2人とも迷うことなく「取ります」と答えた。

ただ加藤さんや、鈴木さんが長い社会人人生のモラトリアムともいえる長期育休を取得できたのは、職場や上司の理解があったからでもある。また、製薬開発やエンジニア職など直接的な顧客を持たない仕事であったことも大きい。

実際、加藤さんの職場では、1年の育休取得を希望した営業職の男性が、上司から「本当にそんなに長く育休をとるつもりか?」と責められ、復帰後も能力に合った評価やポジションを与えられずに干されたことがあったそうだ。

結果、その男性は、職場を去ったという。会社が男性の育休取得を奨励していても、上司の捉え方次第で、不遇な扱いをされることもある。

長い人生の中で何を大事にし、どんな働き方・生き方を選んでいくのか。「男性の育休」が奨励され、制度が拡充されていく中、その選択は、子を持つ男性1人ひとりに委ねられている。

猪俣 奈央子 フリーライター

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いのまた なおこ / Naoko Inomata

1980年生まれ。佐賀県出身・東京在住。大学卒業後、転職メディアを運営するエン・ジャパン株式会社に入社し、中途採用広告のライター業に従事。最大20名のライターをマネジメントする管理職経験あり。2014年にフリーのインタビューライターとして独立。働き方・人材育成・マネジメント・組織開発・ダイバーシティ・女性の生き方・子育て・小児医療・ノンフィクションなどを得意ジャンルとしている。近年では著者に取材し、執筆協力を行うブックライターとしても活動中。

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