男性育休「丸2年取った人」が得た新しい人生観 キャリアや収入源の不安とどう向き合ったのか
男性育休のカルチャーがない職場で、なぜ加藤さんは育休をとろうと思ったのか。
第一の理由として、加藤さんは「妻の産後うつを回避したかった」と語る。薬学部出身で、医学の知識があった加藤さんは、出産後の女性の身体が元の状態に戻るまでおよそ6~8週間を要することや、産後は妊娠中に増えた女性ホルモンの分泌が急激に減り、精神的に不安定になりやすいことを知っていたからだ。
「僕は、すごく稀なケースだと思います。出産後の女性は、メンタルが不安定になることを知っていた。そんな時期に1人っきりで、赤ちゃんの世話から家事までこなしたら、人は簡単に病みます。不安なときに『大丈夫、大丈夫』と隣で言ってくれる存在が必要だし、母親が余裕を持って赤ちゃんと触れ合えるように、いわばバックキャストになって料理や洗濯、掃除をこなす人が絶対に必要です」
育休中にMBAを取得、副業も
もしも育休取得の理由が「妻の産後うつを回避したい」だけであれば、取得期間は産後半年程度でいいようにも思える。加藤さんが2年もの育休をとったのは、育休を、キャリアの過程で立ち止まれる希少な機会だと捉えたからだ。
「偶然にも子どもが生まれたのが、社会人10年目のことだった。少し立ち止まって、学び直したいと思っていたタイミングとちょうど合致したんです」
加藤さんは育休の2年間で、大学に通い、MBAを取得。コロナ禍の影響でオンライン授業に切り替わったことが奏功し、勉強と育児の両立が可能だったという。
とはいえ、会社におけるキャリアが中断してしまうことへの不安はなかったのか。
「育休を取得する前は、やはり不安でした。年功序列の会社なら2年間休めば、キャリア的にかなりマイナスでしょう。ただ、きっとこれからの世の中は、年功序列じゃなくなっていく。そんな期待をこめて、ドキドキしながら取ったんです」
しかし2年の育休を経て、完全に仕事から離れる体験をしたことで「育休が将来のキャリアにどう影響するか」という不安は一切消えたと加藤さんは言う。
「育休を経て、自分自身の価値観が大きく変わりました。仕事をしている最中は、どうしても仕事が、人生の優先順位1位になってしまう。社内でどうキャリアを積み上げていくかだけを考えて、視野が狭くなっていたんです。でも、いざ離れてみて、今いる会社や仕事だけにこだわる必要はないと気づいた。仕事以外にも、人生において大事なことはたくさんある。その大事なものに、自分の時間や労力をどう振り分けていくかを考えたいと思うようになりました」
仕事以外にも大事なことはたくさんある。そう気づいても、「収入がなければ生きてはいけない」と反論する人もいるだろう。
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