ウクライナ「世界遺産」守るにはどうしたらいいか 意外と知らない戦時下に文化財を守る仕組み

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松浦晃一郎ユネスコ事務局長(当時)を含め必死の説得や呼びかけも虚しく、破壊が行われた年のユネスコ総会では事務局長による遺憾の意と共に、未締約国への一刻も早い1954年ハーグ条約締約と条約の周知が重要議題となりました。

また2014年から2017年にかけて、イスラム過激派組織「イスラム国」により、シリアの世界遺産パルミラの遺跡を含めイラク、シリア、リビアで文化財破壊が行われました。

3国とも1954年ハーグ条約の締約国でしたが、結局破壊者に対しては、なすすべがなかったというのが現実でした。イリナ・ボコヴァ・ユネスコ事務局長(当時)は本件を「文化浄化」として非難、2015年の国連総会で各国に文化財保護の措置を改めて取るよう呼びかけました。

ウクライナ侵攻でユネスコがしていること

今回のロシアによるウクライナ軍事侵攻でも、ユネスコは継続して呼びかけを行っています。早朝に侵攻が始まった2月24日の午後には最初の呼びかけとして遺憾の意と共に、文化財を破壊するあらゆる行為に対し1954年ハーグ条約の尊重を訴えました。

その後、今日に至るまでユネスコは多い時で1日に複数回の頻度で公式に呼びかけを続けています。また担当レベルでは関係諸国や専門家と日々連携していることも日々発信しています。

3月初頭には、ウクライナ政府と協力し、特別保護下にある文化財の目印となる「ブルーシールド」と呼ばれる特殊標章の設置を行い、衛星を通して文化財の損傷を監視する旨の発表を行っています。しかし、直後からリヴィウの歴史的な街や文化財の破壊が懸念される報道が出ます。

ですが、たとえ他国間条約で定められた文化財保護のためであっても、国連職員を命の危険にさらして紛争地に派遣するわけにもいかないので、あくまでも遠隔で活動せざるをえないのが現状です。条約締約国だからといって、ユネスコ職員や各国が緊急時に駆けつけてくれるわけではありません。

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