ウクライナ「世界遺産」守るにはどうしたらいいか 意外と知らない戦時下に文化財を守る仕組み

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文化財を破壊される危険性があるということは、当然命の危険もあるということ。その状態でいったいどこまで文化財保護ができるのか。

紛争という緊急事態に備えて平時から文化財にブルーシールドを設置したり、対応措置について十分な議論を行い、法整備をしておく、また可動文化財の避難先を確保しておくなどの準備をユネスコと連携して行っておくことがいかに重要かわかります。

ハーグに設置されているブルーシールド(写真:Civil-Military Coorperation Centre of Excellence/ A. Werres)

そして、ひとたび戦闘が落ち着くと、通常はユネスコの職員や専門家によるチームが現場検証や調査のため現場入りします。被害を被った国と連携しながら、小学校の復興といったユネスコが同時に専門としている教育分野などと併せて優先順位をはかりつつ、どの文化財から修復するのか、といった具体的なプロジェクトに落とし込んでいきます。

バーミヤンの遺跡はその後どうなった?

例えば先述のバーミヤンの遺跡は、2001年の石仏破壊後、2003年には世界遺産登録と同時に危機遺産リストへの登録がなされ、優先的に保護すべき遺産となりました。

修復を行いつつアフガニスタンの持続可能な文化遺産保護や雇用創出を目的としたプロジェクトが立ち上げられ、ユネスコ日本信託基金で2020年まで、その後2023年まで文化無償資金協力「バーミヤンにおける世界遺産の持続可能な管理計画(UNESCO連携)」(供与限度額4億2300万円)を実施中です。

また、イスラム国により破壊されたイラクの古都モスルは2018年からユネスコの優先案件の1つと位置付けられ、やはり現地調査を経て修復・再建のプロジェクトが立ち上げられました。モスルの歴史的なアイデンティティとも言える人の交流と多様性を象徴するモスクと教会が最優先となります。

このプロジェクトの支援国には、宗教を超えた支援として、モスクとミナレットだけでなく、キリスト教の教会をも支援の対象としたアラブ首長国連邦が名乗りを上げ、ユネスコ場裡での賞賛を浴び印象付けました。

EUもユネスコと連携し、122件の歴史的家屋の修復・再建を行うとしています。今年3月にようやく工事が始まりましたが、とは言え枠組みをつくるだけでモスル解放からすでに4年が経過、復興はまだ当分先の話になりそうです。

前島 美知子 研究者、起業家

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まえじまみちこ / Michiko Maejima

東京都生まれ。慶應義塾大学政策・メディア研究科(SFC)修了後、フランス政府給費留学生として2005年渡仏。建築史研究の傍ら、ワインやモード業界での通訳や翻訳を手がけ、フランス文化と世界の関係について新たな視座を開拓中。共著書に『サンコバン ガラス・テクノロジーが支えた建築のイノベーション』、訳書に『パリの街並みと暮らし 知られざる魅力』など。フランス国立科学研究所(CNRS)ポスドク研究員、ユネスコ日本政府代表部(パリ)専門調査員を経て、CNRS建築・都市・都市計画・環境研究室(LAVUE)研究員と個人事業主(通訳・コンサルティング、フランス)を兼任。シャンパーニュ アンリ・ジロー アンバサダー。

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