ネット広告の「歴史書」を紡いだ彼女が語る困難 十数年前の勉強会資料を「発掘」した意外な場所

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「『平成ネット史(仮)』には、『〇〇が取り上げられていない』といった感想が視聴者から多く寄せられました。そうした感想の中には私が忘れていたこともあり、番組づくりに関わる中で、思い出すことも多くて、記録として残したり、体系化したりすることの大切さを痛感して。

そういう意味では、ネット広告は、テレビCMなどのマス広告とは別の広告賞を立ち上げるしかなかった歴史があるし、また、サービス自体が終了することで消えてしまったものも多い背景がありました。

勉強会の依頼が来たのは、『せめてデジタル業界独自で設立された賞を受賞したネット広告くらいは整理・動態保存したほうがいいのではないか』と私なりに心配になっていたタイミングでもあったんです」

欲望の視点で歴史を振り返る

「ネットとは違いますが、オタクカルチャー黎明期を知る当事者たちが当時の証言を残せないまま、高齢化していった現状を見ていたことも、この本を作る動機のひとつでした。コミックマーケット創設者の米沢嘉博氏は2006年に亡くなっていますが、本人の詳細なインタビューなどは残されていないんですよ。

当然、ご本人だからこそ語れることや知りうること、空気感もあったはずですが、ましてネットの世界では古いデータが容赦なく消えてしまう側面もある。本来、残すべき価値あるデータもいずれは消え、人々の記憶からも忘れ去られてしまう可能性が高いと思いました」

森永真弓(もりなが・まゆみ)/株式会社博報堂DYメディアパートナーズメディア環境研究所上席研究員。千葉大学工学部を卒業後、NTTを経て博報堂に入社し現在に至る。コンテンツやコミュニケーションの名脇役としてのデジタル活用を構想構築する裏方請負人。テクノロジー、ネットヘビーユーザー、オタク文化研究などをテーマにしたメディア出演や執筆活動も行っている。自称「なけなしの精神力でコミュ障を打開する引きこもらない方のオタク」。WOMマーケティング協議会理事。著作に『欲望で捉えるデジタルマーケティング史』、『グルメサイトで★★★(ホシ3つ)の店は、本当に美味しいのか』(共著)がある。(撮影:今井康一)

こうして勉強会のために作った資料は、その後、周囲の勧めもあり、あれよあれよという間に書籍化へと進んでいった。森永氏としては予想外の展開だったが、時代の要請がそれだけ強かったようだ。

さて、先述の「平成ネット史(仮)」が言わばユーザー側・文化的な側面からネットの歴史を掘り下げた番組だったとすれば、本書は“ビジネス面からネットの歴史を振り返る”というのが基本のコンセプトとなっている。

広告の戦略論では“ニーズ”や“インサイト”といった言葉がよく使われるが、「儲けを増やしたい」「手間を省きたい」「効果を確認したい」という企業や個人の根元的な「欲望」に軸を置いていることが本書の特徴だ。

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