「キングダム」読むと痛感する日本企業2つの不足点 気鋭の経営学者、入山章栄・早大教授が分析

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今のスタートアップ界隈では、人の移動がかなり自由。待遇面と企業のビジョンの両方が重視されるし、自分に合わない会社だと思ったら社員はすぐ辞めてしまう。アメリカでは以前からこれが普通でしたが、日本もついにそういう時代になってきた。働いてもらうための意味づけ、センスメイキングの重要性がますます強まっています。

『キングダム』で軍を構成するのは職業軍人だけではありません。主人公・信の地元の仲間も、普段は別の仕事をする一般の人々だった。なぜ彼らが一時的に軍に入るかというと、お金がもらえるからです。

目当てがお金であれば、戦況が悪くなった際には脱走者が続出して当然です。ただし、『キングダム』では、とくに飛信隊の成立以降、金銭面よりも、「この人についていきたい」という思いのほうが重要なものとして描かれている。これが、自社のビジョンをどのように設定・提示するかについて自問自答し続ける起業家たちを引きつけているのだと思います。

今年は30代の給料が大企業とベンチャーで逆転する

――給与面に関して、以前はベンチャーといえば「志は高いものの激務薄給」というイメージでしたが、最近は印象が変わってきました。

今年、30代のビジネスパーソンの給料が大企業とベンチャーとの間で初めて逆転するといいます。ベンチャーのほうが高給になる。特定の業種に限らない話です。

昔のベンチャーはまさに「夢はあるけど、金はない」世界だった。でもこれからは、「夢があるし、金もある」。一方、「夢はないけど、金はある」はずだった大企業が、今後は「夢はないし、金もない」になる可能性もある。コロナ後は日本でも大転職時代になると思います。

僕の所属する早稲田大学のビジネススクールも、働きながら通う学生が中心の夜のプログラムは倍率が5倍ほどになっています。10年前は2倍程度でした。今の世の中に不安を感じて、スキルを身につけるためにビジネススクールに通う。多くの学生はその先の転職を、心のどこかで意識しているのではないか。

身につけたスキルを生かす場としてベンチャーを選ぶ人もきっと少なくない。ただし、転職後、1社に定着するかどうかは微妙なところです。ベンチャー企業では人の流動性が高く、10%台前半なら退職率が低いという入れ替わりの激しい世界ですから。

入山章栄(いりやま・あきえ)/慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。2008年にアメリカ・ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.取得。同年よりニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。2019年から現職。専門は経営戦略論、国際経営論。著書に『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない世界最先端の経営学』(日経BP)など。監訳に『両利きの経営』(東洋経済新報社)(写真:梅谷秀司)
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