瀬戸内寂聴さんが「褒める」を大事にしていた理由 「愛する能力=褒める能力、それが教育者の能力」

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私が京都から月一日帰省する旅費も滞在費も、雑費も自分でまかない、ボランティアの出前塾という形であった。五十人を予定し募集発表したら、二日で三百人余りが応募してきて、あわてて打ちきり、抽選にした。どうしても参加したいという熱心な他県人もいて断りきれず、結局、六十二名になった。

十七歳の高校生から六十二歳の会社経営者まで年齢の巾も大きく、学生、OL、公務員、喫茶店の女店主、バーのママ、主婦たちと、経歴・職業も様々であった。

場所は徳島新聞が協力してくれ、社の宿舎の広間を提供してくれた。

一年間、私も塾生も休まず、次第に盛り上がっていった。その時、塾生の中に妊婦が三人いて、途中で妊婦になった人が三人いて、六人の赤ちゃんが、お母さんのお腹で、私の講義を聴いた。私は赤ちゃんにも卒業証書をあげた。

頭の中にはいつも松下村塾の情熱が反映

昨年秋、徳島に私が提案して様々な経緯の末、徳島県立文学書道館が設立した。相変ず、文化度の低さが気になる徳島に、そこから作家や書道家が、こんなにいるんだよと、県民の若い人たちに示し、前途に夢を抱いてほしいし、ふるさとに誇りを持ってほしいという念願からであった。

前の塾生の中から、世界的に通用するガラス芸術作家や、料理人として日本一になりパリまで進出した名料理人や、ヨーロッパからオペラを呼びよせる仕事をするキャリアウーマンや、文芸雑誌の小説受賞者や、大学の助教授になった女性や、県や市の議員になった男女たちなど、活躍している人も多い。

今日を楽しく生きる 「寂庵だより」2007‐1998年より (単行本)
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吉田松陰の私塾、萩の「松下村塾」からは、高杉晋作、久坂玄瑞、伊藤博文等が輩出し、明治維新の原動力となっている。私の頭の中には、いつも松下村塾の情熱が反映していた。

今度の塾は年齢を二十五歳までと限定した。それ以上の人たちに大分文句をいわれたが、以前は六十前だった私も、今年は五月で八十一歳になる。もう自分の持ち時間を考えると、将来の日本を背負っていく若い人たちにこそ、遺言をこめたメッセージを伝えていきたいと思うばかりだ。

予定の四十人の人がたちまち集まった。その中に、前の塾生の子供が三人入っていたのは思いがけない人生のプレゼントであった。

開塾の当日、引きこもりの二人の男女の学生も特別参加してくれ、これも望外の喜びであった。

生きていると、情けないこと、辛いことも多いが、思いがけない喜びも用意されている。(二〇〇三年四月 第百九十五号)

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