瀬戸内寂聴さんが語っていた不安な時代の生き方 「今日の問題は今日にでも解決しないといけない」
日本は定年が早い
瀬戸内寂聴氏、80歳。作家にして僧侶。法話を行えば、1万人もの人が押し寄せる。若い女性から、年配のビジネスマンまで、瀬戸内氏の著作をむさぼるように読み、話に耳を傾ける。混迷の時代だからこそ、人は真理を求めるのだ――。
――瀬戸内さんは岩手県の天台寺で、住職をなさり、4月から11月まで毎月法話をされています。JR東北線の二戸駅からタクシーで20分もかかるお寺に、数多くの人が訪れるそうですね。
多いときで1万5000人、北海道から沖縄まで、海外からいらっしゃる方もいます。共通の話題は「死」です。近親者に死なれた人、あるいは、逆縁という子供に死なれた人が最近多いです。
そういう人たちはもう慰めようがないですよ。だから「この中で、近い過去に愛する人に死なれた方は手を挙げてください」と言うと、ワーッと手が挙がります。それを見て「ほら、みんなの問題よ」と言うと、ちょっとホッとするようです。
それから、お父ちゃんがリストラされた家庭の親や子供たち、奥さん、あるいはリストラされた本人が来ている場合もあります。そういう人たちには、「元気を出しましょう」と言うしかないですね。
日本は定年が早いと思います。私は80歳なのに、こんなに仕事をしているじゃないですか。だから60歳で定年なんてかわいそうです。
――最近出版された『釈迦』は、今多くの男性に読まれていますね。
そうなんです。それだけ世のお父ちゃんも悩んでいるのかと思いますね。ビジネスマンでも、40代後半から50代の男性が買いに来てくれて、今までにはない現象です。とてもうれしいです。この本は、もしかして自分の最後の作品になるかなと思って書きました。
この本を書くために釈迦のたどった道をすべて歩きました。私は必ずものを書くとき、その場所に立つんです。本で調べただけではダメ。やはりそこに行かないと。
土地には、「大地の記憶」というものがあります。大地がそこで起こったことを記憶していて、その大地の記憶が足の裏から伝わってくるんです。そうすると、「あ、書ける」と思います。
――たとえば、不良債権処理のように、つねに問題を先送りにして決断をしない社会になっていると思われます。瀬戸内さんの本の中で、今を一生懸命に生きるという意味で「切に生きる」という言葉がよく出てきますが、この言葉から考えると、今の世の中は「切に生きてない」ということになりますね。
先送りするのは、今を切に生きていないから。
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