瀬戸内寂聴さんが語っていた不安な時代の生き方 「今日の問題は今日にでも解決しないといけない」

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――ひるがえって渋谷や新宿を歩いてみると、一触即発の世の中であるにもかかわらず、みんな無関心で太平楽ですよね。

でもいざ戦争が始まると慌てふためく。自分のことしか考えてないから平気でいられるのでしょうね。

やはり、自分が生きている地球の上のすべての人が飢えず、すべての子供が学校に行ける、そういう時代が来ないと、本当の幸せとはいえません。自分は健康で、おいしいものを食べ、自分だけよい気分で、それでけっこうという思想が、戦後の日本に広まってしまいました。

戦後、日本は知識だけを教育しました。この薬とこの薬を併せればサリンができる。それは知識です。それを使って殺人していいか、その判断をするのが知恵です。

知識偏重教育の結果が現在の荒廃です。知恵を教えずに、知識だけを教えてきた。その教育をまだ守り続けている。これは問題です。

――想像力の大切さも訴えておられます。想像力がなければ、思いやりもないということでしょうか。

そうです。「想像力」のなさです。

相手が何を欲しているのかわからない。だから、戦争をしたらどういう悲惨なことが起こるかという想像力があれば、とても恐ろしくて戦争なんてできないはずです。

人生をゆっくりと考え直す

――60歳から80歳、90歳、100歳と、どのような気持ちで迎えればいいのでしょうか。

年代が変わるときに、1つの節目と考えなければいけません。

小説家の岡本かの子、現代美術家・故岡本太郎さんの母親ですが、彼女は、「40歳になったら根に返る」という言葉を残しています。40歳になったら一度人生をゆっくりと考え直しましょうということだと思うんです。

ただ、現代は寿命が延びているので、岡本かの子がいう40歳は、今の50歳だと思います。私が出家したのが51歳です。私はそのとき根に返ったわけです。

でも今、定年は60歳ですよね。ですから、働いているときから、自分がリタイアしたらどうしたいのか考えておくことが大切だと思います。

私は自分では80歳だと思ったことはありません。私が人に自分の年齢を教えるのは、相手が若いですねと驚いた声を返してくれるのが面白いからです(笑)。

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