平家都落ちさせても嫌われた木曽義仲が不憫な訳 都の貴族たちはなぜ源頼朝に期待をかけたのか

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『平家物語』に描かれる義仲は、都人から見たら、粗野で無作法なのかもしれないが、コミカルで純粋で無邪気である。『平家物語』の義仲への語り口も悪意を含んでいるようには見えない。「威勢厳粛」で堅苦しいイメージの頼朝とは対照的である。

木曽義仲の無作法の逸話も古典『平家物語』に載るものであり、どこまでが本当かはわからない。後世の創作とも考えられよう。

木曽義仲は本当に三種の神器を知らなかったのか

また、放送中の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』第14回「都の義仲」では、木曽義仲がついに上洛し、後白河法皇と対面するシーンがあったが、その中において、義仲が三種の神器を知らず、自らの刀を法皇に献上しようとするシーンが描かれていた(三種の神器とは、神鏡「八咫鏡」、神璽「八尺瓊勾玉」、宝剣「天叢雲剣」(草薙剣)のことで、古くより、皇位の象徴として、皇室で代々受け継がれてきた)。

しかし、義仲は皇族(以仁王の遺児・北陸宮)を推戴し、皇位継承に関与してきたくらいなので、三種の神器はさすがに知っていたと思う。義仲も源氏の御曹司として幼少のころから基礎的な学問・教養を授けられていたはずだし、また、義仲のブレーンには、学識ある僧侶・大夫房覚明もいた(『源平合戦で木曽義仲の活躍支えた「謎の参謀」正体』参照)。

そうしたことを考えたとき、義仲が三種の神器を知らないということはないと思う。ドラマでは義仲の田舎者ぶりを強調したかったのであろうが、相変わらず田舎者ぶり、無教養ぶりが強調される義仲が、筆者にはかわいそうにも思えた。

さて、話を戻そう。義仲軍が上洛した後、ひどい事態が都で進行していた。入京した源氏の混成軍団による住宅、寺社、田畠への乱入・押領が頻発していたのだ。武士以外の人々は田舎に逃げたり(『玉葉』)、資財や道具を郊外に運んだり、土中に埋める(『延慶本』)などの苦心を味わっていた。

「都の人々は今においては、命を長らえる事は難しい。義仲は、後白河院の所領、その他を奪っていて、それは日々倍増している。こうなれば、頼むところは頼朝の上洛だ」(『玉葉』を筆者が現代語訳)と評される混乱状態に都はあった。義仲ではこの混乱を収拾できないとして、頼朝への期待が高まっていたのである。

濱田 浩一郎 歴史学者、作家、評論家

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はまだ こういちろう / Koichiro Hamada

1983年大阪生まれ、兵庫県相生市出身。2006年皇學館大学文学部卒業、2011年皇學館大学大学院文学研究科博士後期課程単位取得満期退学。専門は日本中世史。兵庫県立大学内播磨学研究所研究員、姫路日ノ本短期大学講師、姫路獨協大学講師を歴任。『播磨赤松一族』(KADOKAWA)、『あの名将たちの狂気の謎』(KADOKAWA)、『北条義時』(星海社)、『家康クライシスー天下人の危機回避術ー』(ワニブックス)など著書多数

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