「ワクチン接種で死者が増加」ははたして本当か 「接種後に○○人死亡」を正しく読み解くコツ

著者フォロー
ブックマーク

記事をマイページに保存
できます。
無料会員登録はこちら
はこちら

印刷ページの表示はログインが必要です。

無料会員登録はこちら

はこちら

縮小

常識的に考えればおかしな話ですが、反証は困難を伴います。ある事実が存在しない事実のことを「消極的事実」といいます。しばしば「悪魔の証明」という言い方がされるように、「消極的事実」の立証はきわめて困難です。

この問題は、悪意を持ったフェイクニュースなどとは違って、解釈や主観の問題となるので、すっきりとした形で議論に決着をつけることが難しいのです。

これでは多くの方々は「それでは何もわからないではないか」と心配されることと思います。しかし、方法がないわけではありません。ワクチン接種者と非接種者の病気の発症率や死亡率などのビッグデータを分析することで、ワクチン接種と接種後の死亡リスクを客観的に判定できます。

アメリカではワクチン接種者の追跡調査を行い、接種後の病気の発生率と、接種を行わなかった場合に予想される病気の自然発生率を比較することで、ワクチン接種と死亡との因果関係を検証しています。

アメリカのVSDが因果関係を観察

アメリカには、全米各地の病院が参加する、ワクチン安全データリンク「VSD(Vaccine Safety Datalink)」というモニタリングシステ厶が存在します。VSDでは、およそ1200万人の診療情報やワクチンの接種歴を含む、膨大な医療データを収集しています。

アメリカのCDC(疾病対策予防センター)はこうしたビッグデータを用いて、ワクチン接種者と非接種者の死亡率やさまざまな病気の発生率に差がないか、常にモニタリングしています。CDCは、2021年6月時点で「死亡事例とmRNAワクチン接種には明らかな因果関係がない」と評価しています。

ちなみにこのVSDによるモニタリングで、ファイザー製やモデルナ製のワクチンを接種した若い世代で軽度な心筋炎が発生する頻度がやや高いことがわかり、CDCは注意喚起しています。ただし、その発生頻度はきわめてまれで、ワクチンの恩恵はリスクを上回るとして接種を推奨しています。

このようにビッグデータを緻密に分析すれば、わずかなリスク上昇を把握することができます。ワクチン接種者の死亡率や特定の病気の発症率が著しく高いようなことがあれば、こうしたビッグデータに大きなゆらぎが生じるはずですが、現在ではそのような兆候は見られていません。これはアメリカに限らず、他の国々でも同様です。

ワクチンに反対する人のなかには、毎年の死亡者数と比べた超過死亡に注目して、2021年から本格的に始まったワクチン接種が超過死亡を招いたと主張する方もいます。

確かに、2020年9月~2021年9月までの死亡者数は約107万5000人で、死亡者数の対前年比の増減を見ると5万9810人増えています(図)。これは東日本大震災が起きた2011年の4万9680人を上回っています。ワクチン接種に反対する方は、これをワクチン接種に起因すると主張します。

しかし、同じ調査の死因増減の内訳を見るとかなり印象が違ってきます(図)。死因増の最も大きい寄与要因は、新型コロナウイルス感染症による死亡です。

死亡者数の対前年増減数と2021年の主な死因の増減(2021年12月10日 日本経済新聞より転載)
次ページワクチンとほかの病気との関係
関連記事
トピックボードAD
ライフの人気記事