これまで行われてきた制度改革との連続性としては、まず土地改革に注目したい。中国農村では近年、これまでの土地制度改革の1つの到達点として、農地の「三権分置改革(所有権・請負権・経営権を分離する改革)」が実施された。
これは、土地に対する農民の権利を、譲渡不可能な「請負権」と譲渡可能な「請負経営権」とに分離し、後者の流通と開発を進めようとするものである。ただ、従来の土地改革は地方政府の圧倒的な権限の下で進められており、このために非効率な分配や政府と開発業者との癒着を招きやすかった。要素市場改革ではそれを打破し、全国的に統一された市場メカニズムを作る方針が示されている。
また、労働力移動の改革は、これまでの戸籍改革の取り組みとも深いつながりを持つ。中国政府は10年ほど前から都市―農村における二元的な戸籍制度を廃止し、都市居住証により住民を管理する制度を導入してきたが、人口500万以上の特大都市の居住権を得るためにはいまだに厳しいハードルが課せられている。
今回の要素市場改革では、戸籍転入と戸籍関連手続きを簡素化し、ポータビリティーを高めるため、個人の社会保険関係の情報を一元化し、データとして管理していくことがうたわれている。ただ、これが大都市への労働移動の自由化につながるのかどうかはまだ不確定だ。
技術とデータの市場の整備
一連の要素市場改革に関してもう1つ興味深い点は、土地・労働・資本といった従来の市場改革に加え、新たに「技術」と「データ」が付け加えられている点である。まず、技術に関しては、人工知能やモノのインターネット(IoT)、クラウドコンピューティングなどの新技術を利用する職業に関して、国家がその技術・技能基準を定めること、技術開発のための資本市場を整備することなどがうたわれている。
データに関しては、2021年に「データセキュリティー法」「個人情報保護法」が相次いで成立し、2016年に成立した「サイバーセキュリティー法」と合わせデジタル化に対応したネットワーク法の体系が整備された。これまで見たような土地の流動化や、戸籍のポータビリティーにしても、そのためのデータを一元的に管理するシステムの構築が要請されており、データ関連の法制度を整備することは、生産要素の効率的配分に関わる課題でもある。
すなわち、中国政府がデータを5大生産要素の1つに位置づけていることは、今後の中国の政治・経済・社会における「デジタル化」の推進を最重要視していることの表れでもある。
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